スペイン語文法ノート 英語の he, his, him、she, her, her...などよりちょっとややこしそうなスペイン語の代名詞。直接目的語か間接目的語かによっても使う代名詞が異なり、しかも強勢のあるものやないものなどもあります。




人称代名詞の地域差


Última actualización: 14 de abril 2016


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2人称代名詞 vos

中南米の一部では、親しい間で使う2人称 tú の代わりに vos が使われ、vos で話すことを voseo と言います。一般的に、voseo 地域は、ラプラタ川流域に分布していると言われています。

歴史的背景を見てみると、この vos という代名詞のルーツは3世紀ごろのローマ帝国東西分裂後にさかのぼります。ご存知、スペイン語はローマ帝国で使われていたラテン語から派生した言語ですが、そもそもラテン語には tú に相当する2人称ひとつしかありませんでした。ところが、分裂後、皇帝が二人存在することになり、これらの皇帝への複数形の2人称として使われるようになったのが vos です。その後、歴史的変遷のなかで、親しい間柄の人称として tú の代わりに vos が使われるようになった時期があり、この頃、スペインの新大陸進出が行われるようになりました。

その後、スペイン本国では tú が復活し、vos はアンダルシアの一部やカナリア諸島を除いて姿を消しますが、中南米の地域では、伝えられた当時の vos が残っているというわけです。中南米でもスペインと密接な関係を維持してきた地域では tú が使われますが、つながりの薄かった地域では vos の使用が顕著です。

vos の用例として、以下のような傾向があります。

代名詞としてのみ使用、活用は tú と同じ。
主格、呼格(呼びかけ)、前置詞形のみに使用し、与格、対格、所有格には te, tu を用いる


主格 与格(~に) 対格(~を) 所有格(~の) 前置詞形
vos te te tu vos




tú と異なる独自の活用形を持つ。

国や地域によって異なるため、一概には言えませんが、次のような例があります。

原形 標準的な vos の活用 バリエーションA バリエーションB バリエーションC
hablar hablas hablás hablái habláis hablái
comer comes comés comís coméis coméi
vivir vives vivís vivís vivís viví
ser eres sos soi/erís sois soi




各国・地域の傾向

中南米における vos の使用状況には以下のような傾向が見られます。

傾向と特徴
Argentina  独自の活用を用いる(標準型)。
 tú の使用は見られない。
Paraguay  独自の活用を用いる(標準型)。
 tú の使用は見られない。
Uruguay  独自の活用を用いる(標準型)。
 vos の活用で代名詞 tú を使用する例がある。
Guatemala  独自の活用を用いる。
 同世代あるいは目上から目下への人称として使用。
 外国人相手や正式な場での tú の使用もあるが、usted のほうが一般的。
 男性同士での tú の使用は不適切。
Honduras  vos の使用が一般的(標準型)。
 男性同士での tú の使用は不適切。
El Salvador  独自の活用を用いる(標準型)。
 外国人相手や正式な場において、ていねい語としての tú の使用もある。
 男性同士での tú の使用は不適切。
Nicaragua  独自の活用を用いる(標準型)。
 家族や友人などの親しい間柄、同世代に対して使用。
 ていねい語としては usted を使用。
Costa Rica  独自の活用を用いる(標準型)。
 他の国に比べて vos の使用度は高く、tú の使用度は低い。
 男性同士での tú の使用は不適切。
Bolivia  サンタクルスなどの地域では vos の使用が一般的で、独自の活用を用いる(標準型)。
Chile  中部地域で使用される(バリエーションA)。
Colombia  西部地域、中部、南部・北部の一部で使用される(バリエーションC など)。
Ecuador  中北部山脈地域、キトの限られた地域で使用される。
México  チアパス州を中心とする南部地域で使用される。
Panamá  西部のコスタリカとの国境沿い、アスエロ半島内部などで使用。
Venezuela  スリア州を中心とする北西部で使用(バリエーションB)。
República Dominicana  使用されない。
Puerto Rico  使用されない。
Perú  使用されない。
Cuba  使用されない。





2人称複数代名詞 ustedes

前項で、中南米での vos の使用について見てきましたが、では、その vos の複数形はどうなるのか?という疑問が出てきます。スペイン語の人称代名詞で述べているように、スペイン語標準ではていねいな言い方の usted とその複数形 ustedes、そして、親しい間柄の人称 tú とその複数形 vosotros がありますが、中南米ではこの vosotros は使われません。

その代わりに、usted の複数形である ustedes が使われます。これは、vos を使う地域だけでなく、tú を使う地域でも同じです。つまり、中南米では usted の複数形はもちろん、vos、tú の複数形も ustedes であるというわけです。

単数 複数
vos ustedes
ustedes
usted ustedes





Leísmo(レイスモ)

スペイン語の方言として Leísmo と呼ばれる現象があります。これは、動詞の直接目的語である「~を」を意味する三人称対格の lo, la の代わりに le を使うという傾向を言います。Leísmo は、主にスペインのカスティーリャ・レオン自治州などで見られます。

Carlos lo ha visto.
(カルロスは彼を見た。)―標準(目的語が男性)
Carlos la ha visto.
(カルロスは彼女を見た。)―標準(目的語が女性)
Carlos le ha visto.
(カルロスは彼/彼女を見た。)―Leísmo (目的語が男性/女性)

王立スペイン語アカデミー (Real Academia Español; RAE) の見解では、直接目的語が男性の人間でしかも単数の場合のみ「容認できる」とし、それ以外の用例では「誤った用法」であると位置づけています。

RAE の見解
Señor García, le espero aquí.
(ガルシアさん、ここであなたを待ちます。)―(目的語が男性・人間)
Carlos le vi a María llegar.
(カルロスは彼女―マリアが着くのを見た。)―不可(目的語が女性)
Este quadro le ha pintado mi hijo.
(それ―この絵は息子が描きました。)―不可(目的語が物)
Les conozco bien a los hombres.
(彼ら―その男たちをよく知っている。)―不可(目的語が複数)


Laísmo(ライスモ)

Laísmo とは、「~に」という意味の三人称女性の間接目的語(与格)として le, les の代わりに、直接目的語(対格)の la, las を使うという現象を言い、主にスペインのマドリードやカスティーリャ・レオン自治州で見られます。王立スペイン語アカデミーはこの用法を「間違い」であるとして認めていません。

A María le duele la cabeza.
(マリアは頭が痛い。)―標準
A María la duele la cabeza.
(マリアは頭が痛い。)―Laísmo (RAE の見解では不可


Loísmo(ロイスモ)

Loísmo とは、スペインの方言として見られる現象で、「~に」を意味する間接目的語(与格)の le の代わりに直接目的語(対格)である lo を使うことを言います。王立スペイン語アカデミーはこの用法を「間違い」であるとして認めていません。

A Juan le regaló un libro.
(彼―ホアンに本を贈った。)―標準
A Juan lo regaló un libro.
(彼―ホアンに本を贈った。)―Loísmo (RAE の見解では不可

Leísmo, Laísmo と同様、スペインにおいて見られる現象ですが、このような現象の背景には、与格、対格といった格変化を無くして単純化しようという心理が働いていると思われます。物事はどうしても簡単で単純な方向へと流れていくものであり、言語の変化も例外ではありません。英語では直接・間接を問わず、目的語となる代名詞は me, you, him, her, them の 1種類しかなく、それらの代名詞と前置詞を組み合わせることで本来の格変化を代用しています。スペイン語の格変化は、ラテン語の格変化に比べてすでに単純化されたものではありますが、時代の変遷とともに、英語のような単純化の方向をたどる運命にあるのかもしれません。