スペイン語文法ノート スペイン語を学習していて、もうひとつわからないのが se というやっかいな要素。再帰代名詞であったり、間接目的代名詞になったり、あるいは、受身に使われたり… 複雑怪奇な se をブレークダウンしてみましょう。




se の歴史的考察


Última actualización: 18 de abril 2016


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与格代名詞の se

スペイン語の人称代名詞与格人称代名詞のところでも述べましたが、スペイン語では、三人称の与格代名詞と対格代名詞の両方が用いられた場合、その与格代名詞は se が用いられるというルールがあります。実はこの辺が、イタリア語などの他のラテン語源の言語とは異なり、何か「こだわり」のようなものを感じさせます。

では、なぜスペイン語にこのようなルールができたのか、その歴史的背景を見てみましょう。

  ラテン語にはなかった三人称代名詞
余談になりますが、そもそもラテン語という言語には、「彼、彼女、彼ら」を表す「三人称代名詞」は、基本的には存在しませんでした。そのため、「これ、あれ」といった「指示代名詞」を使って代用していたのです。そのうち、ラテン語が広まり、スペイン語へと発展する方言において、「あれは」という意味の ille (男性形)、illa (女性形)、illus (中性形)という主格代名詞から、それぞれ él (彼は)、ella (彼女は)、ello (それは)という代名詞に発展します。ちなみに複数形は、ラテン語の対格代名詞「あれらを」を意味する illos (男性形)と illas (女性形)から ellos (彼らは)、 ellas (彼女らは)が派生したと言われています。

というわけで、主格代名詞についてはすんなりと理解できるのですが、問題は与格代名詞です。スペイン語の与格・対格代名詞も、「あれ(ら)に、あれ(ら)を」というラテン語の与格・対格代名詞から発展するのですが、三人称与格+三人称対格の組み合わせにおいて、se が用いられるようになったのは、スペイン語の与格・対格代名詞が現在の形になるまでの過程において起こった変化のようです。




  発音の変化がもたらした変遷
下の図は、スペイン語の与格・対格代名詞の派生を示したものです。それぞれの元となるラテン語の代名詞が、発音の脱落、単純化などを経て現在のスペイン語の代名詞になりますが、ここで注目したいのは、与格・対格の組み合わせです。図では、「彼に」(与格)+「それを」(対格)の組み合わせの変遷をピンクの矢印上で説明しています。


まず、ラテン語の段階では、「illi + illum」で、発音と表記は一致していますから、そのまま「イリ・イラム」に近い発音になります。これが、「m」の音が落ち、さらに母音が変化、接続、あるいは欠落したりして、1つの単語のように発音されるようになり、「リエロ」などといった発音になります。この「リ」の発音は舌を口の天井につけて発音するため、舌の位置が少しずれると「ジェ」の音になります。こうして、「ジェロ」の音になり、gelo あるいは離して ge lo と表記されるようになりました。

さて、ここから se lo に変化するわけですが、その経緯として、スペルや発音も似通っていることから、もともとラテン語にあった再帰代名詞三人称の se との混同が起こり、いつの間にか se になったとする説があります。




さらに、もうひとつの説として、 ge lo の ge は消滅したとする考え方もあるようです。つまり、スペイン語の現在の代名詞になった後の変化で、「le + lo」(「レロ」)とか「le + la」(「レラ」)などというのはそもそも発音しにくい、そこで se を使おうということになったという説です。

いずれにしろ、歴史的背景を見ると、与格の se と再帰代名詞の se は、混乱したという事実があったとしても、もともとは「別物」だということができるでしょう。





再帰代名詞三人称の se

上の項で、ラテン語には三人称代名詞は存在しなかったということを述べましたが、唯一、三人称代名詞として存在していたのが再帰代名詞です。このラテン語の再帰代名詞三人称がスペイン語の再帰代名詞三人称の se のルーツです。


スペイン語の受動態の考え方歴史的考察でも述べていますが、すでにラテン語の時代から、再帰代名詞を使った用例には、中間態と呼ばれる、再帰表現以外のものが存在していました。

「自分自身を~する」という場合の「自分自身」を表す代名詞が再帰代名詞ですが、「再帰」とは主語自身に動作の影響が跳ね返ってくるため、主語に「動作の影響が及ぶ範囲に参加させる」という働きを持っていると言えます。ところが、「動作の影響」というものは、その動詞の種類や意味によっても異なってきます。再帰代名詞がいろんな動詞と組み合わせて使用されるうちに、その働きがだんだんと拡大・変化し、自動詞的な表現や受身に近い意味へと発展していったと考えることができます。つまり、中間態、再帰的受身、無人称表現といった用例が生み出されたわけです。

主語が自分以外の目的語に対して、目に見える動きのあるアクションを及ぼす動詞が最もアクティブな動詞であると考えることができます。言い換えれば、動作の方向が外側に向いている動詞ということですが、こういった動詞が主語自身に対して使われる場合に再帰表現となります。一方、主語自身の状態や性質などを表す静的な(内側に向いた)動詞もあります。このような動詞と再帰代名詞が組み合わされると、再帰代名詞の「再帰性」が弱まり、動作の影響範囲への参加のみがクルーズアップされる中間態の用例へと移行していきます。さらに、その中間態としての用例のなかには、動詞の種類や語順、時制などにより、意味的には受身に近いと思われるものも現れ、そこから再帰的受身の用例へと発展したということが言えます。




また、もともとは人間にしか使われなかった再帰代名詞の se が、物などに対して擬人的に使われるようになりました。これは、能動態を好むというスペイン語の特性も関連しているようですが、たとえば、「家」という物を取り上げてみると、「人間が家を売る」という能動態から、家を売った動作主がわからない状況になると、「家が自分自身を売る」→「家が売れる」、あるいは「家が売られる」という非能動的な表現になったという考え方もあります。さらに、「家」の代わりに「手紙」といった物になってくると、「手紙が自分自身を書く」ということになりますが、概念的に、「手紙」のような物体が自動詞的に「書く」ということは考えられないため、これは受身であると位置づけられるようになったと理解することもできます。

Algien vende la casa. (誰かが家を売る)―能動態

La casa se vende. (家が売れる)―中間態

La carta se escribe. (手紙が書かれる)―受動態

いずれにしろ、中間態から受身への移行は、単純に図式化できるものではなく、さまざまな要素が絡み合い、現在の形になったようです。また、「これが中間態、あるいは受身」といった文体の違いが明確ではないため、脈絡で判断するしかないのですが、ざっくりとした目安として、「行動主が主語である場合は再帰・中間態」であり、逆に、「行動主が主語でない場合は受動態」ということが言えるでしょう。