「通弁」クリエイティブ翻訳
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通じないかもしれない翻訳例

ここでは、確実に通じない翻訳例、たぶん通じないだろう翻訳例などを取り上げてみました。例文はいずれも実際に遭遇した事例を参考にした架空の文章です。説明文の最後にカッコ書きで通じる表現例(あくまでも一例です)を挙げています。

安易に自動翻訳ソフトを使った例
これは翻訳以前の問題で、意味をなさない文章になっている例です。実際の翻訳でこのような事例が頻繁に起こっているとは思いませんが、翻訳に対する意識や責任感が不在のまま、安易に自動翻訳ソフトなどを使って処理されるとこのような結果になります。架空の文章をもとに実際に翻訳ソフトを使って処理してみました。カッコ内の意味は、便宜上無理やり訳しています。

例文
LANケーブルでパソコンと接続し、電源を入れるとシステムが起動し、画面に「ようこそ」メッセージが表示されます。

訳文
 自動翻訳ソフトA
Connecting to a PC with LAN cable, and power system will start with the "Welcome" message on the screen is displayed.
(意味:LANケーブルでパソコンにつながっており、画面上の「ようこそ」メッセージが表示され、パワーシステムが起動します。)


 自動翻訳ソフトB
Turn LAN cable connects your PC and start system, the "Welcome" message appears on the screen.
(意味:LANケーブルを回してください。あなたのパソコンを接続します。システムを起動すると、「ようこそ」メッセージが画面に現れます。)


 自動翻訳ソフトC
I am connected to the PC with an LAN cable, and a system starts when I switch it on, and "welcome" a message is displayed by a screen.
(意味:私はLANケーブルでパソコンにつながっており、私がスイッチを入れるとシステムが起動し、画面によって「ようこそ」メッセージが表示されます。)


最近の翻訳ソフトには優れたものがあるのかもしれませんが、やはり限界があります。文法的、構造的にも間違った文章になっています。特に、日本語の特長として、主語や目的語などが省略されていたりするととんでもない訳になります。推測して補おうとはしているようですが、そこは機械のやること、人間にははるかに及びません。最後の例では、主語を補った「私」が登場し、しかも、その「私」がパソコンに接続されたりします(ちょっとコワイですね)。(Connect the product to the PC with a LAN cable and turn the power ON. The system starts displaying the "Welcome" message on the screen.)

機械的な文章構造の横展開
日本語の文章から英語の文章へとほぼフレーズレベルで置き換えた例で、両方の文章を並べると、コンマと句点の位置まで含めて、まさにパラレル構造になっています。

例文
私、先ほど御社の鈴木課長さまよりお電話いただきました、ABC商事の山田太郎と申しますが、いつもお世話になっております。

訳文
I, who have received a telephone call from Mr. Suzuki Section Chief of your company a little while ago, am Taro Yamada of ABC Trading, but you are always taking care of me.
(意味:少し前にあなたの会社の鈴木課長さまよりお電話をいただいた私は、ABC商事の山田太郎です。しかし、あなたはよく私の世話をしてくれています。)


実際にこのような翻訳をする翻訳者はまずいないと思われますが、日本語の理解が不十分であったり、日英の違いをよく理解していないとこのような傾向の一部が見られる文章が出来上がります。また、日本語の「〜ですが」という表現は、必ずしも "but" の意味になるわけではありません。「お世話になる」という言い回しも日本語独特のもので、単純に辞書を引いて「世話をする」=take care of などと機械的に置き換えるのでは、あまりにも安易と言えるでしょう。言うまでもなく、英語圏ではビジネス習慣も異なりますので、名前に肩書きをつけたり、「お世話になっております」といったあいさつも使わないのが普通です。(I'm Taro Yamada with ABC Trading, and returning the call by Mr. Suzuki. May I speak to him?)

単純な単語の置き換え
日本的な概念や哲学的な内容を伝える場合に、単純に辞書などの訳語を当てはめているため、果たして通じるのかという例です。読み手の想像力や前後のつながりから何となく推測できることもあるかもしれませんが、何を言いたいのかわからないという不安が残ります。

例文
日本人は、惜しみなく散っていく桜の潔さに「もののあはれ」を感じるのかもしれない。

訳文
Japanese people may feel "pity of things" with the courage of cherry blossoms which go scattering generously.
(意味:日本人は気前よく散らばっていく桜の勇気に「物に対する哀れみ」を感じるのかもしれない。)


文章表現だけでなく、数ある単語のなかから最適な単語・語句を見つけ出すことも重要なポイントになります。和英・英和辞書は最大公約数的な意味を掲載しているにすぎず、日本語の A =英語の A という単純な図式は成り立たないのが原則です。日本語の深い造詣も大切であり、当然のことながら「あはれ」は「哀れみ」とイコールではありません。また、「あはれ」を英語でどういうか?といった単純な方程式も成り立ちません。完全な定義が不可能な概念的な言葉であるため、理屈的に通じさせるのではなく、その言葉から受ける心情的なものを伝える必要があります。表現的にもその脈絡などで様々な言い方が可能です。(Japanese people may see "the beauty of impermanence" in the way cherry blossoms are detaching their petals so unconditionally.)

例文
若者よ、はばたけ―大空へ。

訳文
Young people, flap -- to the great sky.
(意味:若者よ、バタバタしろ―大空に向かって。)


「はばたく」を辞書で調べると flap や flutter という単語が出てきますが、その単語自身には、日本語の「はばたく」の語感が持つ「若者などが一人前になって巣立っていく」といった旅立ちのイメージはないと言えるでしょう。つまり、日本語には、「若者」を「ヒナ鳥」にたとえるという前提が成り立っています。しかし、英語では、あくまでも「バタバタする」(上下運動する、させる)、あるいは、翼をバタバタさせるという意味が基本です。人間が鳥にたとえられているという前提もありません。脈絡や状況から、その前提が成り立っている場合に限り、通じる可能性もなきにしもあらずですが、下手をすると「あの青年は空に向かって手足をバタバタさせている」といった意味で終わってしまうかもしれません。どうしても「はばたく」というコンセプトを表現したいのであれば、修飾語を補うなどして、比喩の前提を作ってやる必要があるでしょう。(Young people, flap your wings of hope -- into the vast sky of dream.)

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