「通弁」クリエイティブ翻訳コラム

クリエイティブ翻訳ライティングに携わる日常の取り組みにおいて、
気づいたこと、考えたことなどをエッセイ風にまとめています。

安かろう悪かろうの世界
翻訳の適正な料金とは?
翻訳もひとつの職業です


ともすれば、「翻訳」というと、学生や主婦のアルバイトや内職程度に見られることもあるようです。そういう認識があるせいか、数か月かかりそうな大量の案件を「勉強をかねて20万円でやってくださいよ」などというとんでもないリクエストを出して来られる方もいらっしゃるようです。

きちんとした翻訳物は、決して片手間やアルバイトではできるものではありません。また、プロの翻訳者は翻訳のお勉強中なのではなく(もちろん、個人的な勉強や研究は絶えず続けていますが)、それを「職業」としているのです。つまり、特殊な技能を提供し、その対価として収入を得ているわけです。

さて、「職業」ということであれば、当然それで生活が成り立たなければなりません。ここでは、実際の翻訳料金と翻訳にかかる時間や作業量を取り上げながら、適性な料金とはどのくらいかを試算してみたいと思います。

まず、一般的な翻訳料金のイメージとして、日本語から英語の場合1文字15円、英語から日本語の場合は1ワード30円という例が挙げられます。マニュアルなどの繰り返しが多い内容になると、若干安くなる傾向があり、特殊な分野になると高くなります。個人的には、きちんとした翻訳ライティングを提供しようとすれば、翻訳者が得る報酬として、これくらいの料金が妥当だと考えますが、実際には翻訳会社が提示する料金として最も多く見られるパターンだと思います。

翻訳者が翻訳会社を通して仕事をしている場合、翻訳会社がこの料金を提示すると、このうち翻訳者に支払われる金額は、提示料金の半分以下になると考えられます(3分の1というところもあるかもしれません)。いちおう日本語から英語で7 円、英語から日本語なら 13円が翻訳者に支払われるということにしておきましょう。

次に、翻訳者が一日に処理できる分量について見てみましょう。これも難易度によりますが、繰り返しやパターン的な表現のない内容を翻訳するとして、平均的には、日本語から英語で1時間400文字から500文字、英語から日本語で1時間200ワードから250ワードだと思われます。ここでは、より現実的な試算とするため、1日の平均処理量をそれぞれ2500文字、1500ワードとしておきましょう。というのは、用語整理や調査などに時間を取られることがあり、1日フルで8時間、翻訳に没頭できることは稀だからです。また、毎日、程よいペースで規則的に仕事が入ってくることはまず考えられません。1か月に得られる収入として、多少独断的ですが、下記のような試算が成り立ちます。

翻訳 1日の処理量
(8時間)
単価 1日の収入(円) 1か月の収入
(20日間)(円)
日本語から英語 2800文字 7円 7 x 2800 = 19600 19600 x 20 = 392000
英語から日本語 1500ワード 13円 13 x 1500 = 19500 19500 x 20 = 390000

翻訳者はフリーランス、つまり自営業がほとんどですので、ボーナスもありません。ここから所得税、住民税、健康保険、年金を支払わなければなりませんので、1か月に自分一人で暮らしていくには問題はありませんが、この年収で家族を養っていくとしたらちょっとキツイですね。収入を増やそうと思えば、まず、1時間の処理量を上げるか1日の作業時間を増やすということが考えられますが、一定の健康状態を保ちながら生活にも支障をきたさず、なおかつある程度の品質をキープするためには一定のボーダーラインがあります。より単価の良い仕事を獲得するという努力ももちろん必要ですが、翻訳者が受け取る単価が高くなるということは翻訳会社の料金も高くなります。

いずれにしろ、上記の料金イメージは、まともな翻訳を提供できる最低のラインだと思います。翻訳者が受け取る料金がこれ以下になると、生活が成り立ちません。生計を立てていこうとすれば、品質を落として薄利多売を行うしか道はないと思われます。

以上のような理由から、筆者個人が翻訳を依頼する立場とすれば、料金が安すぎる翻訳会社(あるいは翻訳者)には、品質的な疑問を感じます。上に掲げた料金以下の単価でそこそこの品質のものが上がってくる場合は、どこかで無理をしていると考えざるを得ません。翻訳者がボランティア的な仕事をしている、翻訳会社がボランティアをしているか、翻訳以外の事業を展開してそこからの利益でカバーしているかのどちらかでしょう。あるいは、人件費の安い国に優秀な翻訳者を多数抱えている、人間を介さなくても自然な翻訳文を作成できる機械などの秘密兵器を開発しているといった企業努力もあるかもしれませんが…。



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