英語を仕事に生かし、独学しながら日々暮らす。英語で夢も見れば、映画も見る。そんな日常の中で思ったこと、感じた「どーでもいいような」ことなどを書き綴ったコーナーです。そんなのあるある、と言う方もおられれば、しょーもな!と一喝される方もあるでしょう。すべて覚悟の上です。
Posted June 4, 2006


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Posted June 4, 2006


チャットの英語あれこれ




我が家の二階にオーストラリア人が住んでいた。と言っても、今どき間借りさせてあげているとか、ホームスティさせているというのではない。実は我が家はマンションであるが、その二階に住んでいたというわけだ。この記事は当人の断りもなく、無断で書いたので、仮に名前をAとしておこう。別に前もって許可を得てもいいのだが、西洋人の考え方を想像するに、どんなホームページで、どんな内容の記事なのか、どんな人が見るのか、といった質問が矢継ぎ早に来るに違いないと思うと、日本人の自分としてはちょっとめんどうくさいからである。悪口を書くわけでもないし、また、日本語なので本人が読むこともないだろうし、「ま、いいか」ということで話題にさせてもらうことにした。年齢は32歳、男性。即、結婚につながる「彼女」を募集中。すらっとした長身で金髪、日本人女性からすると俗に言う「カッコイイ」外人ということになる。

ちなみに、上のイラストは、筆者がコミックタッチの似顔絵描いてあげるよ、ということでわざわざ描き起こしてあげたものだが、本人に言わせれば、「これはボクではない、使えない。鼻の形も違うし、額も違う、目の色も違う、髪の生え際も違う…」などと延々と述べた挙句、それらを除けば似てるけどね、と言うのだ。ということは、全然似ていないわけじゃないか、ということで、ちょっとむっと来たが、ま、本気で文句を言っているわけでもないし、筆者自身もあまり似ていないと思うので仕方がない。しかし、せっかく描いたのだからここで使わせてもらうことにした。

彼と知り合いになったのは、昨年の5月くらいで、まだ日本に来て数ヶ月だったらしい。実は、このマンションの二階はいろんな英語圏の外国人が数年スパンで入れ替わっており、これまでも何人もの英語ネイティブが住んでいたが、いずれも話をするくらいに親しくはならなかった。なかには顔さえ見たこともない人もあったくらいだ。ところが、今度の彼は少し違った。

第一に、最近、なんだか二階の足音がやけに響く。これまでの外国人は静かで、いるかいないかわからないほどだったのに、今度の住人は、これまたイライラするほどうるさい。と言うより、ズシンズシンと響き渡り、朝早くから「はっ!地震か」と思いビクッとして起きることもあった。住人が替わったなとは思っていたが、これは一体なんだ!一体、二階で何をしているのか、飛んだり跳ねたりしているのだろうか… と頭を悩ませていたのも事実である。人間というものはヘンなもので、全く知らない相手だと騒音などが余計に気になったりする。

第二に、これまでの住人とは異なり、愛想が良い。相手が英語を話そうと話すまいとお構いなしで英語で話しかけてくる。ここら辺が、日本人からすれば、日本にいるんだから、カンタンな日本語くらい覚えて来いよなー、などと思ったりするものだが、思うだけで、実際本人にクレームをつけたりする日本人も少ないだろうし、やはり、日本人は西洋人には甘いのかもしれない。ということで、向こうから Hello! と挨拶して来たので、「これが、あの二階の新しい生き物か…」と思いながら、こちらも Hello! と返すと、いきなり、「あ、英語しゃべれるでしょ?」(日本語ができないのでもちろん英語で)と嬉しそうに聞いてきたので、「まーね」というところから会話が始まった。自分は日本に来てから日本人の彼女がいたが、別れたところだという。

ん?ちょっと待て。日本に来てから数ヶ月だろ?手の早いヤツやなあ。自分は一人で寂しいから彼女が欲しい、そして結婚して身を固めたいと言うのである。別に日本人でなくてもいいが、オーストラリア人はイヤだとか言う。なんで?と聞くと、自分と同年代のオーストラリア人女性は太りすぎているからだとか。じゃ、どんなタイプがいいのかと聞くと、英語が堪能で、物静かで、面白くて、活動的で… といろんなリストが続く、そんなヤツおるかいなとか思いながらも、そーか、そーか、良い人が見つかれば良いね、などと軽い会話をしているうちに、向こうが「ところで、二階の物音聞こえる?」というので、こちらもよくぞ聞いてくれました!という感じで、「聞こえるの聞こえないのって、そりゃもう、地震かなと思うくらいや。アンタ、二階で何やってんの?飛んだり跳ねたり、踊ったりしてるのかなー」と言うと、ただ普通に歩いているだけだと言う。そうか、もっと気をつけますなどと言いながら、その後も状況はたいして変わらなかった。ただ、どんな人間が住んでいるのかわかったし、知り合いにもなったということで、以前ほどは騒音が気にならなくなった。やはり、「人を変えることはできない。自分が変わるだけだ」という名言には真理があるわけだ。



その後も、そのオーストラリア人の彼とはちょくちょく話をするようになり、彼の熱心な勧め(?) で「チャット」などをやる羽目になってしまった。日本で「チャット」などと言えば、若者のすることであったり、言い方は悪いが、いかがわしいビジネスで使われる道具だという認識が強い。しかし、アメリカなどでは、就職のための面接の代わりにチャットを利用するという例もあるらしく、使ってみればなかなか便利なツールである。遠隔地にいる仕事の相手と長電話をする代わりに使ったり、二人以上の話者が同時に参加できるので、オンライン会議としても使えそうだ。第一、料金がタダである。

しかし、難点が二つある。ひとつは、タイピングするのがめんどうなので、ついつい、スペルがおろそかになってしまったり、やたらと単語を省略して書いてしまう。たとえば、 vegetableは vege とか、 Englishが eng とかになる。文章の書き出しも、Shiftキーを押すのがめんどくさくなり、すべて小文字で綴ってみたりする。スペルミスなど、ネイティブの彼のほうが多いくらいで、先日も、出だしから、 Do you have a sec?  (sec  second の略)と書くべきところを最後の sec  c  x と間違えて書いてきた。さて、どう答えたものかと面食らっていると、ごめん、間違えた、 c  x は隣同士だから… などと苦しい言い訳が続くのである。二つ目のデメリットは、遊びムードが強すぎるということだ。

一度、こちらも仕事柄、ネイティブチェックが必要になるので、オーストラリア人のネイティブも確保しておいたほうがいいかなということで、やってみる?と聞いてみるとノリ気だったので試しに短いものを依頼してみた。もちろん、こちらもチェックのポイントなど、しっかりご指導させていただくつもりだった。少しでもお小遣いが入ってくるということで、最初は彼も一生懸命やっていたので、「うん、これはイケルかな」と思ったものである。リライトのアドバイスなどもなかなか良かった。ところが、である。クライアントからのチェックバックが帰ってきたので打ち合わせをしようとしたら、じゃあ、チャットでやりましょうということになり、お互い説明や意見などをやり取りしていた。しかし、これがまたウザイのである。タイピングするのがめんどうくさい。質問と回答が交互に入り混じったりするのでどの質問に対する回答なのかがわかりにくくなる場合もある。

そのうち、もういい加減、遊びたくなったのか(?)、こちらにしたらまだその案件は終わっていないと思っているのに、Now, can I play? などと聞いてくる。すかさず、No! と返すが、間髪入れず、フラッシュだかなんだかよく覚えていないが拍手と歓声のなかでスマイリー(ニコニコマーク)がお辞儀をするビデオクリップのようなものや「ウィンク」だとか「シェイク」だとかの機能を使ったメッセージをどんどん送りつけてくる。「こらあかん」と思った筆者はそれ以後、仕事の依頼はしないことにした。まあ、本人の自覚というよりもチャットというツールがよくなかったのかなとは思うが…。

しかし、軽い会話をしたり、仲のいい友だち同士でじゃれ合ったりするには結構楽しいツールだと思う。趣味が同じ仲間というのもいいかもしれない。いろんなファイルや画像も貼り付けるだけで送れてしまうので、いちいちメールで送ることを思えばカンタンである。また、 チャットで使う特有の表現などもあるようで、なにかジョークを言ったりすると LOL だとか、he, he などと返してくる。LOL というのは、Laugh Out Loud の略らしい。he, he のほうは、言うまでもなく「笑い声」を表している。その他、めんどうなタイピングをする代わりにいろんなスマイリーで自分の反応を表現するということで、のようなもだとか、なものも出てくる。これはキャプチャー画像なので動かないが、実際は動きがあってなかなか可愛い。そのうち、タイピングするのに疲れたのか「音声チャットに招待されました」といったメッセージが現れ、Hi, hello... do you hear me? などと言う声が聞こえてくる。「またかい」などと思いながらこちらもヘッドセットをつけて肉声での会話が始まる。同じマンションの1階と2階に住んでいながら何してるんやろ?などとお互い言い合いながら、けっこう楽しいといえば楽しい。まさに、電話感覚で使えるし、料金もかからない。また、向うにしてみれば、聞きたいことがある場合などに「今から行ってもいい?」といった「予告」がわりに使えるので便利らしい。

というようなわけで、夕方5時近くになると Hi! などとやって来て、それからしばらくチャットで取り留めのないことを話すという日々が続いた。向うは学校で英語を教えているので、5時ごろには帰宅する。しかも、マジメな性格なのか、それとも近くに他に知り合いがいないのか(たぶんそうなのだが)、毎日、きちんと5時ごろに帰宅し、近くのスーパーに買い物に行き、自分で料理を作る。ご飯も好きなようで、普通の鍋で器用に炊いたり、寿司なんかも作る。一度、仕事仲間を家に呼ぶというので、大きな鍋を貸してあげたが、きれいに磨いて返してくれたりで、マメな性分のようである。

筆者などは、1ヶ月に1度掃除すればいいほうだが、この二階の住人はよく掃除もする(そのたびに、テーブルや椅子などモノを動かす音がしてうるさいのであるが)。マジメで良いダンナになるかもしれないが、逆に言うとちょっと神経質かもしれない。マジメかな?と思うと、ちょうど我が家の外にゴミ収集場があるせいか、二階から「ドン!」とかいう音がして、「あ、またヤツがゴミを投げてるぞ」という感じで、これも文化の違いなのか、日本人の自分にとってはマジメなのか不マジメなのか、(たぶんハイブリッド?)よくわからないところもあった。


そのマジメな性格が災いしたのか、とうとう、日本の環境になじむことができず、今年の3月に故郷へ帰ってしまった。その理由たるや、いろんな要素を挙げていたが、やはり、日本語を覚えようとはしなかったし、職場などでもまわりの日本人がわかるような英語を使わなければならないし、そのうち、本場の英語を忘れてしまうといった危機感を持っていたことから、英語圏以外の環境には馴染めなかったんだなと理解した。帰国の準備をしている最中にも何度も呼び出され、「これ要らない?」 「そんなん、ウチにもいっぱいあるから要らんわ」 「いや、そう言わんと、これはこんなときに便利なんだ」 「セールストークうまいなあ」 などということで、指定のゴミの日もあることだし、短期間で片付けるのも大変だと思ったので、捨てきれないものはうちで預かり処分してあげることにした。

それにしても、一人暮らしで一年も経たないのに、なんでこんなにモノがたくさんあるわけ?皿やコップの5枚セットとかどうすんねん、こんなん。友だち呼んでパーティするとき要るでしょ?でも、こんな田舎に住むことになったから友だちも来てくれなくて…。そうかそうか、寂しかったんだねー。こっちも家庭があるからそうそう相手してられないしね。だけど、自転車3台は要らんやろ?それも友だちが来たときのために…。そうか、寂しかったんやなー。ちなみに、日本での彼の趣味のひとつは、廃棄自転車のなかから使える部品を拾ってきて別の自転車を組み立てたりすることだったらしく、そういえば、自転車がパンクしたときに「ちょっとゴミ捨て場に行って来る」というので、ヘンなヤツやなー、それともジョークか?と思っていたのだが、どうも本当だったようだ。てなことで、皿などの各種キッチン用具、自転車3台、小型アイロン、工具、引き破らないと切れないサランラップ、風呂場の棚、プラスチックゴミなど、いろんなものを残しながら英語圏へと帰っていったのである。いまや、彼の残していった「形見」たちは我が家のモノになりつつあり、筆者ももらったママチャリに乗ったりしてけっこう重宝している。

その後、日本での彼の雇用者も、正規採用の外国人を雇うのをやめたということで、後任の英語圏ネイティブの寮も必要なくなり、いま、我が家の二階には日本人の夫婦が住んでいる。先日、メールアドレスを変更したのでいちおう知らせておいたが、返事が返ってきて、元気でやっているらしい。きっと、水を得た魚のように、英語の世界で跳ね回っているのだろう。また、「チャットやろうよ」とも言っていたが、英語圏に戻って話をする相手もたくさんいることだろうし、こちらもお節介でお守をしてあげる必要もなさそうなので、しばらくはそっとしておこうと思っている。