Last update May 29, 2021

方言のバリエーション

中英語期の方言分布

中英語期の初期はフランス語が公式に使われたことから、15世紀になってイングランド最初の印刷が始められるまでは、英語は、もっぱら各地方の方言として使われてきました。

ここでは、そういった方言について簡単にみてみましょう。

もちろん、方言とは、中英語期になって突然できたのではなく古英語期から存在していました。まず、古英語期の「ウェストサクソン」 (West Saxon) 地域のものが「南部方言」へと発展し、「ノーサンブリアン」 (Northumbrian) 方言が「北部方言」へ、マーシア方言 (Mercian) が「東ミッドランド」 (East Midland) と「西ミッドランド」 (West Midland) に分化した形で存在しています。ケント方言 (Kentish) はそのまま変わっていません。


Source: THE ENGLISH LANGUAGE by David Crystal

特徴の比較

では、方言によってどんなバラツキがあったかですが、例をいくつかあげてみましょう。だいたいのイメージをつかむことができると思います。

特徴/方言 北部
(Northen)
南部
(Southern)
東ミッドランド
(East Midland)
西ミッドランド
(West Midland)
その他
動名詞語尾 -and(e) ?? -end(e) -ind(e) -ing
複数形動詞語尾 -es -eth -es -eth -en
三人称複数人称名詞 they, their, them hi, here, hem they, their, them ?? ??
単語
(石)
stane stone ?? ?? ??
単語
(教会)
kirk church ?? ?? ??
単語
(キツネ)
fox vixen fox fox ??

標準化の道へ

各方言に分かれて発達してきた中期英語も、フランスとの関係がこじれてくると、ナショナリズムの高まりとともに自国語「英語」へのめざめが起こります。こうして、公文書の記録もフランス語から英語へ移行することになり、「公文書標準」(Chancery Standard) という表記法が確立し、英国で最初に印刷を始めたカクストンによって「標準語」として英語が広まっていきます。

その「標準語」のもとになったのは、東ミッドランド地方の方言でした。というのも、14世紀になると、東ミッドランド地方からロンドンに移住する人々が増えており、こういった人々がロンドン周辺の方言を形成していったからです。

当時のロンドンは、上の地図の三角で囲んだ地域にあたりますが、ケンブリッジ、オックスフォードを含む文化的、社会的中心でもあるばかりでなく、肥沃な農業地帯でもあり、当時さかんだった羊毛産業の中心でもありました。人口が最も多く、また北部・南部の間に位置していることからも両地域への情報伝達の「橋渡し」役としても機能できることから、この地の言語を標準語とする意義は非常に大きかったわけです。

15世紀も終わりになると、この中央地域と周辺地域の格差はかなり大きくなり、中央で話される言葉は正しく、教養があり、周辺地域のものは無教養で劣っているという認識をされるようになります。