Last update July 4, 2012


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Last update July 4, 2012


ネイティブなら誰でもいいのか?




自分の書いた英語の文章を英語のネイティブにチェックしてもらうことを「ネイティブチェック」と呼んでいるわけだが、もちろん、ネイティブだったら誰でもいいというわけではない。日本人なら誰でも正しく日本語を使えるとか、きちんとした日本語の文章が書けるわけではないのと同じだ。

とは言え、自分にも過去の失敗談がある。というのは、急ぎの仕事で、ネイティブのライターがつかまらなかったため、苦しまぎれに、つい知り合いになったオーストラリア人のシェフをやっているおにいさんに「ちょっとチェックしてくれ」と依頼したのはいいが、結果は推して知るべしだった。やはり、料理と文章は違う(あたり前か)。

しかし、オレも懲りない性分なのか、それから約10年後、近所に住む知り合いのオーストラリア人に「ちょっとアルバイトでやってみないか」と声をかけたことがある。さすがに彼は料理人ではなく英語講師だったので大丈夫だろうと思ったわけだ。英語圏の人間は(ま、誰でもそうだが)お金が好きなので、さっそく乗ってきた。しかし、実際に原稿を渡してみると、その彼いわく、「う〜ん、どこを修正したらいいの?直すとこないけど」。オレ:「何を言う、オレがいつも頼んでいるライターはガンガン修正してくるぞ。英語のネイティブなんだからもっと自信を持って直せ」と励ました結果、数か所修正してきただけで終わった。

二人ともオーストラリア人だったが、これは、何も、オーストラリア人はネイティブチェックが下手なのか、といったような問題ではない。以前いっしょに組んでいたライターもオーストラリア人の女性だったが、自分が苦心して書いた文章をガンガン変えてきたものだ。もちろん、オーストラリアでは男が弱く女が強いというようなことでもない。



そう言えば、思い出すのがはるか20年前のことである。ある企業のビデオのナレーション原稿の翻訳ライティングを担当したが、ナレーションを録音する当日になって、その企業から元の日本語原稿にかなりの変更が入ってきた。しかし、納期も迫っているのでその日のナレーション撮りはずらせないという。よって、スタジオで変更になった日本語原稿を英訳し、ナレーターであるイギリス人にネイティブチェックを依頼して対応することになった。あ〜エライことになったもんだと思いながらも、仕事だからやらんわけにはいかない。

言い遅れたが、実はこのナレーター、なんと、自分が中学のとき、テレビの英語通信講座を聞いていたときに出演していた DPK 先生だったのだ!当日、スタジオで顔を見て名刺をもらってビックリ。いつも格調高いイギリス英語を聞かせてくれた大先生ではないか!オレ:「先生!昔、英語通信講座観てました」、先生:「ほう、そうですか」というわけで、もっと話をしてみたかったがそんな余裕はないので、必死で英文原稿を書き上げ、ドキドキしながら原稿を渡した。

ところが、その先生、1つの表現を変えるにもいちいち申し訳なさそうに説明してくれるのだ。オレ:「先生、どんどん変えてもらっていいです」というのだが、丁寧に説明してくれるのでこっちも恐縮した。結果的に、最小限の修正で原稿が返ってきた。オレ的には、時間に追われて作成した文章なのでもっとブラッシュアップして欲しかったのだが。実際、いつも依頼していたライターなら跡形もなく変えてきたはずだ。やっぱり、ネイティブチェックは難しいのかもしれないと思った次第だ。

ネイティブチェックは難しいか否か、それは自分がネイティブチェックをやってみるとよくわかる。5、6年前になるが、知り合いのインド人から日本語のネイティブチェックを頼まれた。「僕はいろんな翻訳会社とコネがあるから、これトライアルでやってみない?」などと打診が来たのだが、そこはお気楽な国民性のインド人である、トライアルとか言いながら、タダでやってくれる人間を探しているんだなという推測が成り立つ。ともあれ、量も少ないし、勉強のつもりでやってみるかと気軽に引き受けた。

さて、原稿を開いてみると、日本語のわかるインド人が翻訳したのか、あちこちおかしい表現もある。こりゃ、かなり手を入れんといかんなとさっそく作業に取りかかった。しかし、修正作業に入ってみると「はて?」と悩むことになった。ひと言で言えば、「どこまで、どのように、修正するか」なのである。単純な「てにをは」は直すとしても、微妙に「違和感」のある箇所を「どういった観点から、どういう基準に基づいて修正するか」という着地点が定まらないのだ。「日本語らしくない、変だ」という感じ方は同じ日本人でも違うかもしれない、修正案には自分のカラーをどこまで出すべきか、など考えるとキリがない。迷っていても仕事にならないので、結局は自分の感性でやるしかないのだが、プロのチェッカーとしてやっていくには、自分なりの定義や基準、修正する観点、範囲などをきっちり定めておく必要があるということがよくわかった。

以上のことをまとめると、次のようなことが言える。

 ネイティブチェックは誰にでもできるものではない。
 ネイティブチェックには自分なりの基準・範囲が必要。
 よって、ネイティブチェックは人によって結果が異なる可能性がある。