Last update March 22, 2022

子音の変化について

地域差に表れる子音の変化 (1)

英語の子音の変化には、複数の子音の組み合わせからなる発音が単一の子音の発音へと省略されてしまうリダクション (reduction) と呼ばれる現象や、本来は異なる発音だったものが同化する merger、特定の音が脱落する dropping などの現象が挙げられます。ここでは、各地の英語の違いとして表れている子音の変化について紹介します。

 語尾子音の消滅 (Final-consonant deletion)
一部のアフリカ系アメリカ英語にみられる現象で、単語の語尾の子音が消滅するため bad/bæ:/foot/fʊ/ のように聞こえます。

 語頭摩擦音の有声音化 (Initial-fricative-voicing)
イングランドのウェスト・カントリーにみられる傾向で、/s/、/f/、/θ/、/ʃ/ の無声摩擦音が有声音となり、それぞれ /z/、/v/、/ð/、/ʒ/ となることを言います。その結果、sing/zɪŋ/farm/vɑ:rm/ のように発音されます。

 語尾の有声阻害音の無声音化 (Final-obstruent devoicing)
シンガポール英語や一部のアフリカ系アメリカ英語にみられる傾向で、息の流れを遮る有声音である /g//d/ などが語尾にきた場合、それらが無声音化して /k//t/ のように発音されることを言います。たとえば、big/bɪ:k/bad/bæ:t/ のように聞こえます。

 子音の口蓋化 (Palatalization)
/t/、/d/、/s/ などが、次に続く音に影響されて口蓋に近い場所で発音される現象を言います。代表的な例として、後に /j/ の音が続く場合に起こる /j/ の合体 (Yod-coalescence) が挙げられます。don't you が「ドンチュー」、would you が「ウッジュー」と発音されるのも1つの例です。この傾向がさらに進むと、treecontract など /j/ を含まない単語が「チュリー」、「コンチュラクト」のように発音される例もみられます。

 無声軟口蓋摩擦音 (Voiceless velar fricative)
スコットランド英語にみられる現象で、舌の奥の部分と軟口蓋(口蓋の奥の柔らかい部分)で調音される無声の摩擦音を言います。スコットランドのゲール語で湖を意味する lochch の発音がこれに該当し、発音記号 /x/ で表記されます。

 子音の長音化 (Gemination)
consonant elongation とも言い、特定の子音が他の子音よりも長く発音される傾向を言います。英語ではアクセントなどの影響で特定の子音が長く発音されることはありませんが、破裂音、摩擦音、鼻音の同じ音が2つ続いた場合、その音が長くなる傾向があります。また、ウェールズ英語では、それらの音が2つ続くかどうかにかかわらず、母音にはさまれた子音が長音化する傾向がみられます。

 banvan の同化 (Ban–van merger)
カリブ諸島やメキシコ系英語の一部にみられる現象で、/v//b/ と同じ発音になるため、banvan が同音になります。

 h の脱落 (H-dropping)
ヨークシャーやコックニー英語にみられる特徴で、househeat など「h」で始まる単語の /h/ が脱落することを言います。それ以外の英語においても、he、him、her、his、have といった強勢のない語においては /h/ の脱落が一般的にみられます。また、代名詞の it は古英語の hit が変化したものですが、アメリカ南部やスコットランド英語の一部では、今でも強調形としての hit が残っているようです。

 /j/ の脱落 (Yod-dropping)
Yod とはヘブライ語のアルファベットのことで /j/ を表すことからこの名称がつけられていますが、/u:/ の前にくる /j/ の音が脱落する現象で、ほとんどの英語においてみられます。特に顕著なのは、chew、juice、yew など /ʧ/、/ʤ/、/j/ の後や rude など /r/、または blue など「l」を含む子音群の後にくる場合で、chewschooseyewyouthrewthrough が同音になります。ただしウェールズ英語では、これらをそれぞれ /ɪu//u:/ で区別しています。さらに、 suitenthusiasm のように /s/、/l/、/z/、/θ/ の後の脱落も多くの英語でみられます。アメリカ英語ではその範囲がさらに広がり、tune、dew、new などの /t/、/d/、/n/ の後でも脱落が起こり、「トゥーン」、「ドゥー」、「ヌー」に近い発音になる傾向もあります。

 /j/ の合体 (Yod-coalescence)
子音の口蓋化 (palatalization) の1つの現象で、/dj/、/tj/、/sj/、/zj/ の発音がそれぞれ /ʤ/、/ʧ/、/ʃ/、/ʒ/ のように発音されます。たとえば educate が「エディケイト」ではなく「エジュケイト」のように発音されます。主に強勢のない音節において起こる現象ですが、オーストラリア、イギリスのコックニーやエスチュアリ英語、アイルランド英語の一部、ニュージーランドやスコットランド英語、アジアの英語においては、tunedune などの強勢のある音節でもみられ、「テューン」が「チューン」、「デューン」が「ジューン」のようになります。

 /j/ の「r」化 (Yod-rhotacization)
南部アフリカ系アメリカ英語にみられる特徴で、/j//r/ のように発音されるため、beautiful が「ブルーティフル」、music が「ムルージック」のように聞こえます。