冠詞の起源
スペイン語も、英語などと同様に冠詞を持つ言語で、
the に相当する定冠詞と
a、an に相当する不定冠詞があります。日本語には「冠詞」というものはないため、日本人にとっては、その概念が理解しにくいと思います。
そもそもなぜ「冠詞」というものが生まれたか――これは、正確なコミュニケーションのために必要だったからに他なりません。たとえば、「私は犬を飼っています。その犬は…」などと、前の文章に出てきた名詞をもう一度後の文章で使う場合、「その、それ」とか「あの、あれ」といった言葉を使って名詞を指し示す必要があります。こういった「それ、あれ」を表す言葉を「指示詞」(
demostrativo) と言います(「指示代名詞」と考えてもかまいませんが、ここでは厳密に、「指示形容詞」と「指示代名詞」を網羅した「指示詞」という用語を使います)。
こういった指示詞を使った用法が拡大していくうちに、名詞を指し示すためにつけていた指示詞がだんだん変化し、音韻的にも弱くなって定冠詞(英語では
the)になったと言われています。事実、「その」や「あの」という意味の指示詞を語源とする定冠詞を持つ言語が多くみられます。
英語の
the も指示詞の
that から派生しています。それと同様に、スペイン語の定冠詞も指示詞から発展しました。また、英語の不定冠詞
a、an が「ひとつ」を表す
one から発展したように、スペイン語の不定冠詞も「ひとつ」を表す単語から来ています。
ただし、スペイン語の定冠詞のルーツはスペイン語の指示詞ではなく、その親言語であるラテン語が元になっています。ラテン語自体は冠詞を持たない言語ですが、そこからスペイン語をはじめ、フランス語、イタリア語、ポルトガル語などのさまざまな言語(総称してロマンス語と呼ばれます)が形成される過程において冠詞を持つようになってきました。そして、スペイン語を含むそれらの言語の冠詞のルーツになったのが、ラテン語の指示詞
ille、illa、illud です。