Last update May 29, 2021

Geoffrey Chaucer
チョーサー (1343-1400)


  (C) Eigo-Zakkaya

チョーサーの英語

では、中英語期を代表する文筆家であるチョーサーの英語を見てみましょう。

下記の一節は、彼の『カンタベリー物語』 (The Canterbury Tales) (1387-95)の冒頭の部分で大変有名な一節です。表中赤で表記されているのが現代訳です。

『カンタベリー物語』はカンタベリー大聖堂(当時はまだカトリック)への巡礼の途中に巡礼者がそれぞれに話をしながら旅をしようという設定で書かれた英国初の短編集で、政治、教会、ロマンス、世間話などさまざまな題材が盛り込まれた物語です。チョーサー自身がイタリアに行った時に読んだ「デカメロン」や「アラビアンナイト」がヒントになっているといわれています。

Whan that Aprille with hise shoures soote
     When April with its sweet showers

The droghte of March hath perced to the roote
     has pierced the drought of March to the root

And bathed euery veyne in swich licour
     and bathed every vein in such liquid

Of which vertu engendred is the flour
     from which strength the flower is engendered;

Whan Zephirus eek with his sweete breeth
     When Zephirus also with his sweet breath

Inspired hath in euery holt and heeth
     has breathed upon in every woodland and heath

The tendre croppes and the yonge sonne
     the tender shoots, and the young sun

Hath in the Ram his half cours yronne
     has run his half-course in the Ram,

And smale fowles maken melodye
     and small birds make melody

That slepen al the nyght with open eye
     that sleep all night with open eyes

So priketh hem nature in hir corages
     (so nature pricks them in their hearts);

Thanne longen folk to goon on pilgrimages...
     then long folk to go on pilgrimages...

少し注意深く見ると、なんとなく意味のわかりそうな単語もありますね。対比表を作ってみると以下のようになります。

当時の英語 現代英語 補足
Whan When
Aprille April
hise its
shoures showers u が2つくっついて w になっていきます。また、当時は uv は同じ文字として使われていました。
soote, sweete sweet
hath has 動詞 have の三人称単数形。北部、ミッドランド地方北部では「-s」であり、現代英語に引き継がれています。
euery every 当時は uv は同じ文字。ちなみにスペイン語などでも、usted という代名詞(ていねいな「あなた」)を略式表記するのに Ud.Vd. の2種類が現存していますから、この傾向はアルファベット全般に共通することだったと言えます。
veyne vein
swich such
flour flower
breeth breath
cours course
yonge young
sonne sun
yronne run
smale small
fowles birds 現代英語では fowl (「家禽」)という単語に引き継がれていますが、当時は「鳥、小鳥」の意味。ちなみに現代語の bird に該当する語は、古英語では「雛(ヒナ)」の意味だったようです。
maken make -en は複数名詞の動詞の語尾変化です。ちなみに北部では -es、イースト・ミッドランド地方や南部では -eth というふうに多様性がありました。
melodye melody
slepen sleep -en は複数名詞の動詞の語尾変化です。ちなみに北部では -es、イースト・ミッドランド地方や南部では -eth というふうに多様性がありました。
al all
nyght night
hem them 人称代名詞については地域によってバリエーションがありました。theytheirthem は主に北部、西部ミッドランド地方に見られ、hiherehem という形は南部のほうに見られました。
hir their 人称代名詞については地域によってバリエーションがありました。theytheirthem は主に北部、西部ミッドランド地方に見られ、hiherehem という形は南部のほうに見られました。
Thanne then
longen long -en は複数名詞の動詞の語尾変化です。ちなみに北部では -es、イースト・ミッドランド地方や南部では -eth というふうに多様性がありました。
goon go

なお、当時の英語の発音で読んでみるとどうなるかに興味のある方は下記のサイトをチェックしてみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=GihrWuysnrc