ネイティブチェックは魔法ではない仕事がオーバーフロー状態になると、自分も翻訳を外部に依頼することもあるが、なかなかこちらの期待する品質が上がってこないことがある。そこで、「なんか直訳っぽい文章になっているんですが。もっと英語らしい表現になりませんか」などと頼んでみると、「ちゃんとネイティブがチェックしているんですけどね」とか「最初からネイティブが翻訳していますので、そんなはずはないと思うんですが」といった答えが返ってくることが多い。自分としては、「これってなんか違うよな」と思うわけである。 日本人は英語が苦手なせいか、英語のネイティブというとそれだけで「すごい」と思っているようなフシがある(半面、英語以外のマイナー言語のネイティブには興味も示さない?)。「ネイティブチェックしてます」って、だからどうなんだ?元の翻訳がまずければ、いくらネイティブチェックしても同じだろうがと言いたくなる。「最初からネイティブが翻訳しています」、「それがどうした?ネイティブが翻訳しようがノン・ネイティブが翻訳しようが、そのやり方が直訳なら伝わらない」ってわけだ。もちろん、単純な文法ミスはなくなるだろうし、ところどころに英語らしい表現も使われるかもしれないが、肝心なところで原文の意味がつかめていなければ意味がないというものだ。 おっと、いけない、オレとしたことが、冷静にならないといかん。失礼。つまり、言いたいのは、「ネイティブが参加するだけで素晴らしいものになる」とは限らないということだ。ネイティブチェックに限定して考えると、たとえば、翻訳料金を節約するために社内で英語のわかる人間に翻訳させて、後でネイティブチェックだけ依頼すればいいじゃないかとか、コストダウンのため、安く依頼できる翻訳者に翻訳させて、後でネイティブチェックを入れれば大丈夫だろう―なんてことをマジで考えている人がいたら、翻訳に対しては「素人」と言わねばならない。 もちろん、元の翻訳の品質が良ければ、ネイティブチェックをしてさらに良いものになるのは確かだ。しかし、元の英文が良くない場合はネイティブチェックの効果はほとんどないだろう。冠詞や前置詞などの文法的な間違いは修正されるが、全体としてわかりやすい、読みやすい、伝わる内容のものに「変身!」などということはまずあり得ない。ネイティブチェッカーは魔法使いでもなければ、仮面ライダーでもない。 たとえは悪いが、忙しくて1週間風呂に入っていないとする。特に夏場など汗をかきやすい季節なら、当然、臭い。そんなとき、急に打ち合わせなどで出かけなければならない用事ができた。これから風呂に入っている暇もない。仕方がない、「男の香水」でもつけてカバーするか、ということで、この「香水」に相当するのがネイティブチェックである。さて、これで臭いがカバーできたぞと思うのは本人だけであって、周りの人からすると、「ん?なんか臭う」などということになり、ヘタをすると「体臭と香水がかもしだす奇妙なハーモニー」になりかねない。 話はそれたが、じゃあ、なぜネイティブはそこまでできないのか、あるいはやってくれないのか?ということになるが、その理由は2つある。1つは、元の英文を読んでも意味がわからない(通じていない)ので書き直そうにも修正のしようがない。2つ目は、推測されるネイティブチェッカーのタイプと傾向でも触れたが、ネイティブチェックの料金ではそこまでやってられないからだ。もちろん、時間的にも、翻訳作業と同じくらいの時間を割くわけにはいかないので、限界がある。もっとも時間があっても料金的に時間をかけていられない。 ネイティブチェックを依頼してみればわかるが、ネイティブチェックの料金は1ワード10円前後が相場で、実際に作業するチェッカーが受け取るのはせいぜい5円程度だろう。仮に1000ワードの原稿があるとすれば5000円となるわけだが、この1000ワードの原稿とは、翻訳作業に当てはめれば半日程度(場合によっては約一日)の仕事量に相当する。元の文章をすべて書き直そうとすれば、文章作成という意味から、翻訳と同等の仕事量が必要だと仮定して、一日の半分以上を使うことになる。元の文章の意味が不明の場合、確認などのやりとりが必要になるため、さらに手間と時間を取られる。さて、この5000円が安いか高いかということだ。 その一方で、元の翻訳が良ければ、ざっと目を通しながらところどころ修正を加えるだけですむ。意味がわからないというストレスもないので、楽に作業ができるし、数時間で作業は完了するだろう。人間誰しも楽に稼げるほうがいいに決まっている。しかも、ビジネスはボランティアではない。意味が通じないが、確認してリライトするのもめんどうなんで、ここはひとつ、文法的なチェックだけで済ませよう――とネイティブが実際に思っているかどうかは知らないし、人によっても違うかもしれないが、そう考えていたとしても「無理もない」と思うのだが…。 どうしてもそこまでやって欲しい!と思うのなら、やっぱり、ライティング料金を払って、ネイティブライターにじっくりと最初から書き直してもらえばいい。ただし、その場合、きちんと翻訳された元原稿が必要になる。日本語のわかるネイティブ翻訳者に一から翻訳してもらうというのもいいが、翻訳者のなかでも原文の文章構造に引きずられ直訳してしまう人もいるということ、また原文の意味が正しく取れているかを(特に日本語は曖昧で微妙な表現が多い)後で注意深くチェックすることが必要になってくる。 以上のことをまとめると、次のようなことが言える。
元の英文がまずければ、ネイティブチェックの効果はない。
|