Last update March 22, 2022

母音の変化について

地域差に表れる母音の変化 (1)

国や地域による英語の発音の違いとしてよく比較対象になるのが、本来同じ発音だったものが別々の発音に枝分かれする split 「分裂」 と逆に別の発音だったものが同一の発音になるという merger 「合併」と呼ばれる変化です。こういった変化を説明する際には、さまざまな母音を含むレクシカル・セット (Lexical Set) と呼ばれる単語群のなかのキーとなる単語を使って、Trapbath の分裂 (Trap–bath split) などと呼びます。これは、この特定の単語だけがそうだというのではなく、この単語に代表される単語群のすべてに共通の傾向であるという考え方をします。

そういった母音の変化の特徴をまとめてみると以下のようなものが挙げられます。

 強勢のない母音の同化 (Weak-vowel merger)
強勢のない母音 /ɪ/ の音が /ə/ と同化する傾向で、たとえば abbotrabbit が韻を踏みます。オーストラリアやニュージーランド英語、アメリカ英語、アイルランド英語ではこの傾向がほぼ確立しています。

 緊張した /æ/ の音 (/Æ/ tensing)
アメリカ英語や一部カナダ英語にみられる傾向で /æ/ の音が /ɛ(e)a/ などのような二重母音に近い音で発音されます。詳しくは、アメリカ英語の発音「緊張した /æ/ の音」の説明をご覧ください。

 non-rhotic (ノン・ロウティック) による発音の同化
イギリス英語をはじめ、オーストラリア、ニュージーランド、ウェールズ英語では、「r」の音が音節末尾の母音を発音しない non-rhotic (ノン・ロウティック) であるため、以下のような単語のペアが同じ発音になることがあります(国や地域によって異なります)。

発音の同化 同じ発音になる単語例
Father–farther merger
/ɑ://ɑ:r/ の同化 → /ɑ:/
レクシカル・セット (Lexical Set) における PALMSTART 語群:father = farther、alms = arms、lava = lava、calmer = karma、ma = mar
Pawn–porn merger
/ɔ://ɔ:r/ の同化 → /ɔ:/
レクシカル・セット (Lexical Set) における THOUGHTNORTH 語群:pawn = porn、awe = or、draw = drawer、laud = lord = lawed、lawn = lorn、sought = sort、talk = torque、taught = tort
Caught–court merger
/ɔ://ɔər/ の同化 → /ɔ:/
レクシカル・セット (Lexical Set) における THOUGHTFORCE 語群:caught = court、aw (awe) = oar = ore、bawn = bourn(e)、daw = door、flaw = floor、fought = fort、law = lore、maw = more = moor、paw = pore = pour、raw = roar、sauce = source、saw = soar = sore、sawed = sword、Sean = shorn、shaw = shore、yaw = your
Paw–poor merger
/ɔ://ʊər/ の同化 → /ɔ:/
レクシカル・セット (Lexical Set) における THOUGHTCURE 語群:paw = poor、law = lure、maw = moor、shaw = sure、yaw = your = you're
Calve–carve merger
/a://ɑ:r/ の同化 → /ɑ:/
レクシカル・セット (Lexical Set) における BATHSTART 語群:calve = carve、aunt = aren't、bawn = bourn(e)、cast (caste) = karst