Last update March 22, 2022

母音の変化について

地域差に表れる母音の変化 (3)

 footgoose の同化 (Foot–goose merger)
スコットランド、アイルランドのウルスター英語、マレーシア、シンガポールの英語にみられる傾向で、/ʊ//u:/ が同化することで、lookLuke が同音になり、goodfoodfootboot が韻を踏むようになります。fullfool の同化もこの一種です。

 footstrut の分裂 (Foot–strut split)
中英語期に起こった母音の分裂で、短母音の「u」が foot などの /ʊ/strut などの /ʌ/ に枝分かれした変化を言います。ほどんとの英語ではこの変化の影響を受けていますが、北イングランドでは例外であり、逆にこれがこの地域での特徴になっています。

 fullfool の同化 (Full–fool merger)
/l/ の前にくる /ʊ//u:/ の音が同化し、その結果、pullpool、full と fool が同音になる現象で、ピッツバーグを中心とするアメリカ英語やスコットランド英語にみられる傾向です。その他、l」の母音化のみられるニュージーランド英語やイギリスのエスチュアリ英語やコックニー英語にも同様の傾向がみられますが、後に母音で始まる接尾辞などがついた場合は、この同化は起こりません。

 furryferry の同化 (Furry–ferry merger)
母音に挟まれた「r」の前にくる母音の発音が同化する変化で、「r」の前の /ɜ//ɛ/ が同じになります。アメリカのフィラデルフィアでみられる特徴です。

 happy の語尾音の強調 (Happy-tensing)
happy の語尾のようなゆるい /ɪ/ の音が強調され /i/ の音で発音される現象を言います。南部アメリカ、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドでみられる特徴です。

 horsehoarse の同化 (Horse–hoarse merger)
North–force merger とも呼ばれ、「r」の前の /ɔ//o/ が同化して /ɔ:/ になるため、horsehoarseforfourwarworeoroarmorningmourning が韻を踏むことになります。ボストンや南部アメリカ英語、アフリカ系アメリカ英語を除くアメリカ英語にみられる他、スコットランド、アイルランド、カリブ諸島、インドの英語を除くほとんどの英語にみられる特徴です。また、伝統的な RP では、horse/ɔ:/hoarse/ɔə/ で区別されています。

 hullhole の同化 (Hull–hole merger)
/l/ の前にくる /ʌ//oʊ/ の音が同化し、その結果、hullhole が同音になる現象で、l」の母音化のみられる英語においてみられます。

 hurryfurry の同化 (Hurry–furry merger)
母音に挟まれた「r」の前にくる母音の発音が同化する変化で、「r」の前の /ʌ//ɝ/ が同じになります。アメリカ英語にみられます。

 /ɪ//ɛ/ の同化 (Merger of /ɪ/ and /ɛ/)
カナダのニューファンドランド・ラブラドール州の英語にみられる現象で、/ɪ//ɛ/ の音が同化し /ɪ/ で発音されるため bitbet が同音になります。

 kitbit の分裂 (Kit–bit split)
南アフリカ英語にみられる顕著な特徴で、kitbit がそれぞれ /kɪt//bʌt/ と発音されるため韻を踏まない現象です。「i」が /k/、/g/ などの軟口蓋音と隣り合う場合や /h/ に続く場合、語頭にくる場合、あるいは /ʃ/ または /ʧ//ʤ/ の前にくる場合は /ɪ/ の発音となり、それ以外は /ə/ となるのが一般的です。

 lineloin の同化 (Line–loin merger)
南部イングランドやアイルランド英語、カナダのニューファンドランド・ラブラドール州、カリブ諸島などの英語でみられる傾向で、/aɪ//ɔɪ/ の音が区別されないため、lineloinbileboilimplyemploy がそれぞれ同音になります。

 lotcloth の分裂 (Lot–cloth split)
/f/、/θ/、/s/ など、無声音の摩擦音の前に来る母音が長音化したり舌の位置が上がる(口の開きが小さくなる)という傾向であり、アメリカの一部の地域では、lot/ɑ/ で発音され、cloth/ɔ/ の音で発音される傾向がみられます。