Last update March 22, 2022

母音の変化について

地域差に表れる母音の変化 (4)

 maremayor の同化 (Mare–mayor merger)
フィラデルフィアやバルティモアの英語にみられ、2つの音節で構成される /eɪ.ə/ の音が /eə/ という二重母音に変化することで、mayormare が韻を踏むようになります。一方で、/æ/ の強調という /æ/ が二重母音 /eə/ に近くなる現象に関連して、その発音が /æ/ に変化するという動きも起こり、mayonnaise/meəneɪz/ から /mæneɪz/graham/ɡreəm/ から /ɡræm/ になるような発音の変化もみられます。

 Mary、marry、merry の同化 (Mary–marry–merry merger)
r」前の母音の同化のうち最も顕著な例で、「r」が母音に挟まれた場合、「r」の前の /eɪ/、/æ/、/ɛ/ が同化し、その結果 merry と同じ発音になる変化のことです。アメリカやカナダ英語にみられる傾向ですが、地域によっては、この3つの単語群がすべて同じ発音になるところと、3つのうち2つのみが同一音になり、残りの1つは区別される地域もあります。

 metmat の同化 (Met–mat merger)
マレーシアやシンガポール、ホンコン英語にみられる現象で、/ɛ//æ/ の音が同化し /ɛ/ で発音されるため metmatbedbat が同音になります。発音が同じになるのは無声音の子音の前でのみという話者もいるようです。

 metmate の同化 (Met–mate merger)
ズールー語話者の英語にみられる現象で、/eɪ//ɛ/ の音が同化し /ɛ/ で発音されるため metmate が同音になります。発音が同じになるのは無声音の子音の前でのみという話者もいるようです。

 mirrornearer の同化 (Mirror–nearer merger)
母音に挟まれた「r」の前にくる母音の発音が同化する変化で、「r」の前の /ɪ//i/ が同じになります。アメリカ英語にみられます。

 mirrormere の同化 (Mirror–mere merger)
母音に挟まれた「r」の前にくる母音の同化する変化であり、「r」の音節に強勢がない場合や速く発音される場合、その音節の母音が落ちてしまう現象を言います。たとえば、mirror-ro--r- になり Oregon-re-r- になることで、mirrormereOregonorgan と同じように聞こえます。アメリカ英語でよくみられる傾向です。

 mittmeet の同化 (Mitt–meet merger)
マレーシアやシンガポール英語にみられ、/i://ɪ/ の音が同化し /i/ で発音されるため mittmeetbitbeatbidbead が同音になります。

 nearsquare の同化 (Near-square merger)
/ɪə//ɛə/ (あるいは /eə/)が同化する傾向で、ニューヨークやニュージーランド、イングランドのイースト・アングリア、アメリカのサウスカロライナ、カリブ諸島でみられる傾向です。ニューヨークやニュージーランドでは near の発音に同化し、イースト・アングリア、サウスカロライナでは square に同化します。

 pinpen の同化 (Pin–pen merger)
/m/、/n/、/ŋ/ などの鼻音の前にくる /ɪ//ɛ/ が同じ発音になる現象で、南部アメリカやオクラホマやテキサスからの移民の多い西部アメリカの英語、アフリカ系アメリカ英語にみられます。アイルランドではかってはこの傾向が多くみられましたが、現在ではコークやケリー州にとどまっています。

 pourpoor の同化 (Pour–poor merger)
poor/ɪə/pour/ɔ:/ が同化することで、南部イギリス英語ではいずれも /pɔ:/ と発音され、アメリカ英語の一部では、いずれも /poə/、/po(ɔ)r/ などと発音されます。