はじめに中間態ありき
「中間態」というのは聞きなれない概念でもあり、能動態と受動態の間に便宜上付け加えられたものではないかというイメージを持ってしまうかもしれませんが、そもそもスペイン語の親であるラテン語の、そのまた親であるインド・ヨーロッパ言語(
lenguas indoeuropeas)では、「能動態」と「中間態」の二種類の「態」しかなかったようです。
つまり、「中間態」が先に存在し、そこから派生してできたのが「受動態」だということです。ですから、「中間態」についてこだわる必要はないのですが、インド・ヨーロッパ言語の子孫であるスペイン語に「全く存在しない」というのではちょっと理屈が合わないようなことになってしまいます。
では、中間態とは感覚的にどんなものなのか、まず、簡単な英語の例で考えてみましょう。
Car dealers sell cars.
(ディーラーは車を売る。)―能動態(他動詞)
Cars are sold by car dealers.
(車はディーラーによって売られる。)―受動態(他動詞)
The car sells well.
(その車はよく売れる。)―中間態(自動詞)
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文法では、態の基本的な考え方として、動作主が主語であり受動主としての目的語を取る場合は能動態、逆に受動主が主語になるとその文は受動態であるということが言えます。
上の最初の例では、動作主である「
Car dealers」が主語で、「
cars」という目的語(受動主)を伴う能動文ですが、二番目は「
sell」という動作の影響を受ける受動主「
cars」が主語になった受動文です。ところが、最後の例では、受動主が主語なので受動態の条件を持っていますが、「
sells」という動詞の形は受動態ではなく能動態に見えます。このような能動態でも受動態でもない、あるいは、能動態と受動態の両方の特徴を持っているような文が中間態です(
mediopassive 「中間受動態」といった分類をする場合もあります)。
別の観点からみると、主語が目的語に対して「外的影響を与える」のが能動態で、主語が他者によって「外的影響を被る」のが受動態、そして、「内的影響を与え、自分自身が被る」、つまり、動作とその影響が主語自身のなかで自己完結しているのが中間態だと定義することができます。受動態では、主語になる受動主は一方的に影響を被るばかりで、全く動詞のアクションには参加しませんが、中間態になると、主語が動詞のアクションに関与することになります。
また、文章に登場する参加者(事物)としては、上の例では、能動態と受動態では「
car dealers」と「
cars」の2つがありますが、中間態では参加者(事物)は1つだけ(主語のみ:
the car)となります。
動詞については、能動態と受動態も他動詞でないと成立しないため「他動詞」、中間態では「自動詞」(スペイン語では自動詞的な動詞の形)になります。
中間態としての条件をまとめてみると、以下のようになります。
主語が動作主なのか受動主なのかが定義できない(両方の要素を持っている)
目的語が不在である(文章に登場するのは主語のみ)
動詞が自動詞である
主語が動詞のアクションに参加・関与する
さらに、能動態、受動態と比較してみましょう。
項目
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能動態
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中間態
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受動態
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主語
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行動主
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行動主/受動主
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受動主
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目的語(直接)
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あり
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なし
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なし
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登場物
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2体(主語+目的語)
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1体(主語のみ)
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2 (1) 体(主語、行動主)
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動詞
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他動詞
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自動詞
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他動詞
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動作
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参加する
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参加する
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参加しない
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影響
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外的に与える
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内的に与える/受ける
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外的に受ける
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