Last update August 1, 2022

はじめに――なぜ冠詞が生まれたのか? (1)

冠詞はそれほど単純じゃない

日本語にはないだけに苦労するのが「冠詞」ですね。よく出てくる説明に「最初に出てきた名詞には不定冠詞の a または an をつけて、2回目に登場したときには the をつける」というのがあります。あるいは、これもよく引き合いに出される「りんご」の話ですが、「どれでもいい任意のりんごは不定冠詞 (a, an) でかじりかけのりんごなど、特定のりんごを表す場合は定冠詞 (the) をつければいいんだ」というのもありますね。

しかし、英語の冠詞というものはそんな単純な話ではすみません。日常的に英文を書いている人であれば、それはよくわかりますね。いろいろ悩んで苦労して英文を作成しても、ネイティブからは「日本人の英語のミスで多いのが冠詞の間違いです」などと言われたりして悔しい思いもすることでしょう。

英語のネイティブに質問すればいいじゃないか?――と言う人もいるかもしれません。しかし、ネイティブに質問しても、言語学者でもない限り(言語学者でも意見が分かれたりしますが)、なかなか納得できる回答は得られません。また人によっても答えが違います。「定冠詞は1つしかないユニークなものにつけるんです」などと教えてくれることもあるかもしれませんが、そんなに単純じゃありません。

なかには、「これこれしかじかで、これはユニークな名詞と考えることができる」などと、無理やり「こじつけ」てユニークな名詞に仕立て上げてしまうこともあるかもしれません。もちろん、学ぶ人にとって「できるだけ簡単に」という配慮からきているのでしょうが。学ぶ側はシンプルな理論であればあるほど、インパクトもあり(だからウケます)、大歓迎なんですが、悲しいかな、言語とはそんなに甘くはありません。

ネイティブにしても、自分たちは生まれた時から冠詞を使っているので、「どこがどう難しいのか、どういうところで悩むのか」は理解できないと思います(それが当然ですね)。あくまでも自分たちが使っているときの発想や感覚、あるいはその場で感じたことをもとに説明してくれているわけです。私たちが外国人に日本語の「てにをは」を説明するときと同じですね。あくまでも個人の体験や感性で説明する、しかし、それが必ずしも正しい理解につながるかはわからないものです。

というわけで、このコーナーは、日本人として、調べれば調べるほどわからなくなる「英語の冠詞」というものを解き明かし、少しでも冠詞に対する本質的な理解を深めていきたいと思います。