アルファベットはどこから? (1)
そもそもアルファベットとは…
アルファベット (alphabet) といえばA、B、C… ですが、そもそも本来の「アルファベット」というのは、英語のアルファベットを指すだけではありません。漢字などのように、文字自身が意味を持っているものを表意文字といいますが、それに対して、基礎となる音を表す文字のことを「アルファベット」と呼びます。つまり、それらの文字を使うことによって言語表現が可能になるような文字体系を表しているのです。
では、英語のアルファベットはどこから来たのでしょうか?――その直接のルーツは、他のヨーロッパ言語と同様、ラテン語のアルファベットで、英語に取り入れられるようになったのは、古英語期における9世紀ごろです。
また、そのラテン語のアルファベットはギリシア語のアルファベットから来たもので、さらにギリシア語のアルファベットはフェニキア人 (Phoenicians) のアルファベットをもとにして作られたものです。
ちなみに、この「アルファベット」alphabet という言葉ですが、中英語期(1100~1500)に入ってきたもので、その語源はラテン語の alphabetum、さらにさかのぼれば、ギリシア語のalphabētos 「α(アルファ)とβ(ベータ)」から来ています。アルファベットの最初の2文字を取ってこう呼ぶようになったというわけです。
ではまず、もともとのルーツであるフェニキア人のアルファベットについて、詳しく見てみましょう。
元をたどればヒエログリフ?
歴史上最も古い文字といえば、そうです、メソポタミア文明の楔形(くさびがた)文字 (cuneiform) とエジプト文明のヒエログリフ (hieroglyph) ですね。いずれも紀元前3000年以上前から存在していたとされていますが、楔形文字のほうがヒエログリフに比べるとやや時代が古いようです。そのため、文字表現の考え方など、エジプトのヒエログリフも楔形文字の影響を受けているのではないかとも言われています。
さて、フェニキア文字ですが、実は、このヒエログリフと関連しているのではないかという説があります。ヒエログリフは象形文字とも言われ、文字自体が物の形を表す文字ですが、それ以外にも発音を表す表音文字、そして、意味の解釈を助ける記号としても用いられていました。
この表音文字として使われていた文字体系がヒントとなり、フェニキア文字の先祖である原シナイ文字 (Proto-Sinaitic script) が作られたのはないかというのです。ちなみに、ヒエログリフの表音文字体系は、母音の音はなく子音だけで表現されたアルファベットです。母音の音はどうするのかというと、文字を読むときに、読む人が適宜子音に母音の音を加えて読んでいたようです。このように、子音だけのアルファベットをアブジャー (abjad) といいます。
原シナイ文字は、シナイ半島 (the Sinai Peninsula) で発見された文字で、フェニキア人の祖先であるカナン人 (Canaanites) たちによって、青銅器時代 (the Bronze Age) である紀元前1850年ごろから使われていたようです。当時のエジプトにはカナン人が多数移民しトルコ石発掘場で働いていたことから、彼らがヒエログリフをヒントにして、原シナイ文字を発明したのではないかというのです。作られた文字の形状がヒエログリフを単純化した形に似ていることも、その仮説を裏づける根拠となっているようです。そして、その原シナイ文字が広く使用されるようになったのは、紀元前13~12世紀ごろのセミ族王国が台頭するようになってからだと言われます。
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