「通弁」クリエイティブ翻訳コラム

クリエイティブ翻訳ライティングに携わる日常の取り組みにおいて、
気づいたこと、考えたことなどをエッセイ風にまとめています。

たかが翻訳とは言えども…
ビジネスにおける翻訳ライティングの影響
ビジネスの世界における翻訳業務の現状について考えること


ビジネスにおける業績を上げるには、優れた営業力と商品の品質が必要だと言われますが、もっともなことだと思います。そして、そのビジネスの規模にかかわらず、「カタログ、または紹介パンフレット、あるいはホームページくらいはあったほうがいいだろう」、さらに、グローバル時代だから「英語版も作っておこう」ということで作成することになるのが英語版だと言えます。そして、実際に英語版の制作となると、

(1)翻訳会社などに依頼して上がってきたものを、そのまま、テキストとして流し込んで対応
(2)翻訳会社などに依頼して上がってきたものを英語のわかる担当者がチェックして完成
(3)予算もないので、内部の英語の得意なスタッフなどに翻訳させたものを使用

といった3つのパターンが考えられます。

(1)の場合は、翻訳を依頼する側として2つの場合があります。1つは、ビジネスの規模も大きく、翻訳の依頼先との間に信頼関係ができており、翻訳の品質も良いと判断しているため、上がってきたものをそのまま信用するという場合です。もう1つは、ビジネスの規模も小さく、英文ライティングの良し悪しを判断できる体制も整っていないため、翻訳会社の翻訳ライティングを信用するしかないという場合です。いずれの場合も、依頼先が良質の翻訳ライティングを提供してくれるところであれば、良い英語版が完成するでしょう。ところが、後者の企業の場合で、たまたま上がってきた翻訳が直訳調の翻訳であったり、間違いが含まれているものであった場合には、粗悪な英語版ができてしまうことになります。

また、(2)の場合では、翻訳依頼先の翻訳ライティングが優れていて、依頼元企業の担当者のチェックが良質のものであれば、これもまた優れた英語版が完成します。ただし、ここで言う「良質のチェック」とは、翻訳ライティングの表現はプロである翻訳ライターにまかせ、自分は、業界における専門用語や技術的な内容、市場動向などの視点からのチェックに専念していただくということが前提になります。

ところが、依頼元のチェッカーが、自分も「表現」に携わりたいという欲求を持っておられる場合、上がってきたものを読んでついつい書き直したくなる(ライターとして、この気持ちはよくわかりますが)ということになります。技術的に表現しきれていない(実際そういう場合もあります)といった理由をつけてリライトしてしまいます。リライトしたものが、良質のライティングであれば、それで問題はありませんが、そうでない場合、状況は複雑になってきます。チェックを戻された翻訳ライターも、これではどうかと思うので、チェック担当者に対して「意見を述べる」ことになりますが、あまりこだわっていると、どこからか「たかが翻訳じゃないか、納期もないことだし、手間もかかるし」といった意見も聞こえてくるわけです。そうすると、受注側としては立場上、妥協することになり、最悪の場合、たとえ、元々の翻訳ライティングは優れたものであったとしても、結局、英作文レベルのライティングになってしまうということになる場合もあります。

もちろん、チェック担当者の英文表現レベルが翻訳ライターのそれよりも上回っていて、リライトによって良いものができるという場合もあります。しかし、常識で考えれば、翻訳ライティングに携わる者は、四六時中、何年もそれをやっているわけであり、依頼元の担当者は、自社の商品・技術に関する業務に来る日も来る日も携わっておられるわけですから、翻訳ライターは表現に強く、企業担当者は商品・技術に強いはずです。つまり、お互いの棲み分けと信頼関係がうまく機能していれば良いものが完成します。

また、(3)の場合は、ビジネスチャンスの消失につながる場合もあります。もちろん、その英語が得意な人員が、優れた英文ライティングのできる人材であるという可能性も考えられますが、非常に稀だと思われます。通常、それほど優れたライティングスキルの持ち主であれば、それを活かしたいと思うのが人情であり、それを活かせる職業や業種に就いているはずではないでしょうか。

最近は、Internetの普及で、小さな規模のビジネスであってもホームページなどでグローバルに自社の商品や技術を紹介できる時代です。技術の国日本では、地方の小さなビジネスでありながら、NASAで使われるような技術を提供しているところもあるようです。これまでは、大規模のビジネスに埋もれて、情報発信すら困難だった小さなビジネスであっても、Internetを武器にして、世界の舞台に堂々と情報発信できるのが21世紀なのです。そんなとき、検索エンジンにたまたま引っ掛かったメッセージが「何が書いてあるかよくわからない」というのでは、みすみすビジネスチャンスを逃すようなもので、非常にもったいないと思うのです。

「商品や技術が優れていれば売れる」というのはもっともなことですが、その商品や技術が優れていることを説明できるのは、言葉以外にはありません。たとえ、パンフレットやホームページのデザインが美しくても、「優れていること」は十分に説明できません。「営業が良ければ売れる」とは言え、営業担当の笑顔だけでは売れない。その語り口、つまり、メッセージを伝えるのは、コミュニケーションの手段である「言葉」に他ならないわけです。

「たかが翻訳じゃないか」というのも無理のない話で、全体の広告宣伝費の中でも翻訳ライティングの占める割合はきわめて小さいものです。デザインや撮影費などに比べると微々たるものかもしれません。しかし、小さいからと言って、その影響も少ないだろうというのではありません。

広告・販促というのは、自分たちの技術、商品のプレゼンテーションです。初めての商談などで、商品や技術をアピールするためのプレゼンテーションに、よれよれのスーツやぼさぼさの髪でのぞむ人はいません。パンフレットやホームページなどの制作物は、ビジネスの顔であり、営業マンに例えることができます。スーツや髪型などの外見がデザインなどの視覚的な部分だとすれば、文章は、プレゼンテータが話す言葉と言えるでしょう。ぼそぼそと小さな声で話していたり、何を言っているのかよくわからないというのでは、プレゼンテーションとして失敗だと言わなければなりません。

「雄弁が金」である英語圏に向けて、プレゼンテーションするのですから、ある程度のスマートさも必要です。「訥々と話す営業マンに好感を持った」と言ってもらえるのは日本だけかもしれません。それも、少数派に共感してもらうだけではなく、大きく共感を得るほうがいいに決まっています。堂々と、そして、スマートに自分をアピールすること、これが、グローバル時代の成功への道であり、そのためには、翻訳ライティングという小さな部分であっても、決しておろそかにはできないのではないかと考えています。



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