無事任務を終えてクルージングを楽しむ(?)一群
夏の田舎を散歩していると、水を張った田んぼですいすい泳ぎながら、水中をつついている水鳥の姿を見かけるかもしれません。不思議な光景ですね。農家の人はなぜ放置しているの?鳥が泳げるところは他にないの?それとも、日本のような小さな国土ではまともな池もないの?と思ってしまいますよね。
この「鳥」は正確に言うと「合鴨」と言って、野生のマガモとアヒルを掛け合わせて生まれた品種です。で、その合鴨たちが一体何をしているかと言うと、見ての通り泳ぎながらエサを食べているのですが、実はそこにはもっと深い事実があります。つまり、化学物質を使わない米の栽培に一役買っているのです。
でも、田んぼの中で泳いでいるだけで一体何ができるのでしょうか?まず、足をばたばたと動かすことで、雑草を引き抜き取り除くことができます。また地面を揺らし刺激を与えることで、米の根っこに酸素を送ります。次に、虫を食べてくれるので、害虫駆除になります。さらに、フンは肥料や栄養分になります。つまり、農家にとっても、合鴨たちにとっても(もちろん本人たちは一切あずかり知らないことですが)Win-Winの関係になるわけです。
これは「合鴨農法」と呼ばれ、古くから、他のアジアの国々でも行われています。日本では、豊臣秀吉の時代に始められましたが、あまり盛んになることはなかったようです。とくに1950年代になると、もっと効率の良い化学肥料や農薬が使われるようになり、ますますすたれていきました。しかし、時代は変わり、人々は健康に害のない自然なものを求めるようになってきました。そこで、鴨たちが返り咲きを果たしたのです。
というわけで、「合鴨さん、美味しいお米をありがとう。また来年もよろしくね!」と言いたいところですが、残念ながら、この合鴨たちに来年も会うことはできません。なぜって、こんなに大きくなってしまったからです。この仕事ができるのは、子供の合鴨だけで、大人になったら田んぼを出ていかなければなりません。「そんな理不尽な…!」と思ってしまいますね。しかし、大きくなるのは鴨たちだけでなく、米も成長します。米が穂を出し実をつけてくると、今度はこれを成鳥が食べてしまうからなのです。じゃあ、大きくなった合鴨たちはどうなるの?と言うと、あまり言いたくはないのですが、田んぼから出され、さらにエサを与えられ、太らされて、やがては人間の食卓に上るのだとか。なんともおぞましい事実ですが、食物連鎖の厳しい現実ですね。せめて、その尊い犠牲に感謝し、美味しくいただきましょう!
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