できれば読みたくない!違和感たっぷりの文章例
その4:日本人は「受け身」が好き?(日→英)
ここでは、日本語マニュアルの一部を英文に翻訳した例です。「翻訳」としては間違いではありませんが、マニュアルのライティングとしては改善の余地があります。
NG例文
- SD mode can be set using the remote controller. It will be applied when the set temperature is reached.
- When the operation begins, SD mode will be turned on for a maximum of 10 minutes, then SD will be turned off for a minimum of 6 minutes. After that, SD mode will be switched on or off according to the set temperature, as shown in below.
原文
- SDモードはリモコンを使って設定することができます。設定温度に到達したときにSDモードが適用されます。
- 運転が開始されると、最高10分間SDモードがオンの状態になり、次に、最低6分間オフになります。その後は、以下のように、設定温度に応じてオン/オフします。
解説
上の例文の下線を引いたところがすべて「受け身」(受動態)で書かれている箇所です。さすがにここまで受動態を散りばめた実例は存在しないかもしれませんが、一つの戒めとする意味でもやや誇張してみました。
かつては、私自身何を隠そう、技術的な内容では「受け身」形の常習犯でした。というのも、日本語の文章には「主語」がない文章や受動態文が多いため、原文からは「主体」が特定しにくい場合があるのです。その隠された主語を補おうにも、その製品や技術に関して開発者レベルの知識がなければ、間違ったものを主語にしてしまう恐れもあります。とりあえず受動態を使っていれば「間違いではない」ということですね。
「日本で作成された英文には受動態が多すぎる」という指摘は20年以上も前からありましたが、なかなか改善しないところにはそういう背景もあるわけです。ちなみに、じゃあ英語圏の人が書けばすべて能動態になるのかというとそういうことでもなく、受動態を使っている例もあります。それでも、できるだけ能動態を使おうという傾向があります。
さらに言うなら、受動態を一切使わないというのではなく、あくまでも効果的に使おうということなのです。その効果的な使い方とは、1) 能動態の文章に受動態の文章を混ぜることで、ライティングとしてのメリハリをつける場合、そして 2) 意図的に「主体」をぼかしたい場合です。それ以外は極力、能動態で表現したほうがシンプルで好感度も高まるでしょう。
というわけで、上の例を見てみましょう。まず、「リモコンを使って設定することができます」という箇所ですが、この「リモコンを使って」というのは、リモコンを使うしかないのか、それとも、「他にも方法があるが、リモコンを使うという便利な方法がある」ということなのかを考えてみる必要があります。
つまり、この「できる」の箇所が選択肢の1つとしての「可能性」を言っているものなのかということです。そうであれば「できる」の部分は(技術的な文書でもあるため)きちんと表現してやらなければいけません。能動態を使おうということであれば、
You (the user) can make SD mode settings using the remote controller.
とするしかありません。ちなみにカッコ内の the user よりも you を使ったほうが親しみやすさがあり良い印象を与えます。
ところが、一般ユーザーが(技術者などではなく)設定する場合にはリモコンを使うしかないのであれば、「できる」「できない」の話ではないので、「~してください」と表現したほうがシンプルかつ正確です。
次の「適用されます」は、apply よりも、そのモードが「起動する・開始する」という発想をしたほうがより英語らしいと言えます。
「設定温度に到達」の箇所は、the set temperature is reached の代わりに the temperature reaches a specified value (「温度が設定値に到達する」)などと表現すれば能動態になります。
また、turn on/off、switch on/off という動詞ですが、例文では他動詞として使っているので「受動態」を使うしかありません。あるいは、SD mode 以外の名詞を主語にするかですね。しかし、幸い turn や switch には自動詞としての意味もありますので、SD mode を主語にしたまま自動詞として使えばいいわけです。「動詞」には他動詞だけでなく自動詞の用法がある場合もあるということを頭に入れておくとよいでしょう。
さらに、「運転が開始されると…」の部分です。日本語では、「~すると○○」とか「~なら○○」など、サブ情報が先に来てメインの情報は後に来るため、つい英語表現でもこの順序で文章を書いてしまう傾向があります。
もちろん、これがまったくNGだというわけではありません。メリハリや変化をつけるために前に持って来ることもあります。しかし、マニュアルやビジネス関連の文書などは、可能な限り、先にメインの情報を先にもってくるのが自然だということです。とくにマニュアルなどでは、使う人が「何をすればいいのか」をまず伝えることが大事だからです。
また、下のライティング例では、SD mode という機能名を代名詞や the mode などで置きかえずに使っていますが、これは、マニュアルという特性を考えて、あくまでも誤解や間違いのないように繰り返しています。
翻訳に基づいたライティング例
- Use the remote controller to make SD mode settings. SD mode will engage when the temperature has reached a specified value.
- SD mode turns ON for 10 minutes (maximum) when the unit starts operation and then turns OFF for 6 minutes (minimum). Afterward, the mode will switch ON or OFF depending on the set temperature, as shown below:
(画像はイメージです。)
|