できれば読みたくない!違和感たっぷりの文章例
その5:日本人は「統一」が好き?(日→英)
ここでは、よくある「会社のトップのメッセージ」といった想定の内容の翻訳例です(内容は架空です)。翻訳としては問題ありませんが、英語の「読み物」としては改善の余地があります。
NG例文
Founder’s message
If there are people, there is a chance
Things beyond our “conventional wisdom” and we would react to saying “No way!” can happen. That is the world today.
The same applies to the business world. Large companies go bankrupt one after another; people don’t buy at department stores; the restaurant industry struggles for survival; people can’t go out. Events we would react to saying “No way!” decades ago are now happening all over the world.
But that doesn’t mean the earth has collapsed. Humanity has not yet perished. Despite the pain, people are “plodding through” their lives. What I want to say here is that if there are people, there is hope. “If there are people, there is a chance,” and for that matter, “if there are people, there is a business opportunity.”
Humans seem to be weak, but they are actually strong. We can become stronger by combining the strengths of each person. Now is the time to believe in human strength. That’s why I want to shout out loud, “If there are people, there is a chance.”
原文
創業者メッセージ
人あればチャンスあり
これまでの「常識」では考えられない「まさか!」と思うことが起きる。それが今の世の中なのです。
ビジネスの世界でもそうです。大企業が次々に倒産する、百貨店に客が来ない、外食産業が成り立たない、人々が外出できない…。数十年前には「まさか!」と思うような出来事が今世界のあちこちで起きているのです。
しかし、だからと言って地球が崩壊したわけじゃない。人類が滅んだわけじゃないのです。苦しいなかにも、人はまだ「営々」と生きている。ここで私が言いたいのは「人あれば希望あり」ということなのです。「人あればチャンスあり」、さらに言えば「人あればビジネスチャンスあり」なのです。
人間は弱いようで実は強い。一人一人の強さを結集すればもっと強くなれる。今こそ人間の強さを信じるときです。だから私は「人あればチャンスあり」と声を大にして叫びたいのです。
解説
上の例文の下線を引いたところは、繰り返し同じ表現が出てくる箇所ですが、英語表現でもまったく同じパターンで統一されています。日本人の感覚としては、きちんと整っている感があり非常に気持ちのよいものです。
私自身、大学卒業後入社した広告制作会社で商品の英文カタログの編集を担当することになったのですが、そこで徹底的に教えられたのが「商品の特長文言の統一」でした。複数の商品を紹介する総合カタログでは、同じ商品群に共通する特長が何度も登場します。商品ごとの特長のプライオリティ付けと同時に、他の商品と比較した場合のバランスも考えたうえで、特長を並べていくのです。
特長名の英語表記はもちろんのこと、「この商品では特長Aがトップに来ているのに、この商品では特長Bが先に来ているじゃないか」といった順序の「統一」から、それぞれの特長を紹介する文言の「統一」まで、隅から隅まで「統一」することが求められたものです。
例を挙げると「便利で操作もカンタンな○○機能」という文言があるとすると、「キミ、ここでは『操作が簡単で便利な○○機能』となっているぞ。同じ特長なんだから統一しろ!」というわけです。
「便利」というのと「操作が簡単」というのが入れ替わっているのがわかりますね。でも、それだけじゃありません。「簡単」の表記が漢字になっていたり「カンタン」とカタカナになっていたりという「バラツキ」も「統一」しなければなりません。それが、「編集作業」だと言うわけです。ともあれ、こういう細かいところで、当時は何晩も徹夜したものです。
ところが、その後、いろんな経験を通してわかったのは、読者である英語圏の人たちは「統一」など気にしないということでした。それよりもむしろ、「芸がない、無味乾燥、退屈」といったネガティブな印象を与えかねないというのです。もちろん、特長の名前であるとか、専門用語などは統一しないと誤解のもとになるので、そういう部分の統一は必要だと思います。しかし、何から何までガチガチに固定してしまうというのは不自然だというわけです。
冒頭で挙げた例文でも、創業者の言葉である「人あればチャンスあり」という部分が一字一句同じ単語の組み合わせで表現されています。創業者に対する尊敬の念はわかるのですが、一字たりとも変えてはいけないといった「聖域」にしてしまうのはいかがなものかと思います。一字一句という字ずらを大切にするのか、そこに込められた考え方を大切にする(伝えたい)のかということになります。後者であれば、むしろ、いくつかのバリエーションを持たせた表現をしたほうが、より多くの人に理解がしやすいと思うのです。
さすがに、「まさか!」の部分まで統一しなければと思う人は少ないかもしれませんが、たまに、これに近いレベルまでの「統一」を求めて来られる方もおられるので、ここはあえて少し誇張しています。その都度、「英語圏の人にはむしろバリエーションがあったほうが歓迎される」ということを説明させていただくのですが、「統一・整然=美しい」という発想は、どうも「横並び」に通ずるところがあるような印象を受けます。また、「まさか!」の部分を原文どおりに会話文として表現する必要もありません。
次に、引用符の使い方についてです。このサイトでもそうですが、日本語の文章では、その言葉を強調するためにカギ括弧で囲む傾向があります。こうしておくと、書くほうも、大事なところがわかってもらえるという安心感もあり、読む側としては、「これはポイントだな」ということがわかります。
というわけで、日本語にカギ括弧があれば、当然英語版でも同じ箇所を引用符(“ ”)で囲もうとするわけですね。私自身も、つい数年前まではそれをやっていたのですが、ある日ネイティブライターにプルーフリーディングを依頼した際に、「引用符は会話など、純粋に引用するときだけにしたほうがいい」という指摘を受けたのです。つまり、英語では、その言葉だけを囲ってしまうと、その部分に対する皮肉や疑わしさを感じさせることになるということなのです(参考:「英語雑貨屋―引用符のルール」)。
翻訳に基づいたライティング例
Founder’s message
Where there are lives, there are chances
In the world today, things beyond our traditional knowledge and imagination can happen. So does in the business world. Big companies can fail here and there; department stores can lose their customers; many restaurants cannot keep their businesses afloat; people are locked up inside their homes. Things that seemed impossible to happen decades ago have become global daily events.
But that does not mean the end of the world. Humanity is still alive. Not thriving in the best way due to the pain, but people diligently work on their lives.
So please let me say this: Where there is humanity, there is hope. I can also say that interactions among people create chances, and then, why not “if there are people, there are business opportunities.”
Humans may look fragile, but they can be resilient. Even more so we can be with individual powers united, and it is crucial more than never for us to believe in our strength. That is why I want to address my message loud and clear: There are chances as long as people survive.
(画像はイメージです。)
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