クリエイティブ業界におけるクリエイティブ・ライティングとは?
インパクトにはインパクトを、感動には感動を、じっくりと読ませるところはじっくりと… これは翻訳に基づいたクリエイティブ・ライティングの基本です。
しかし、当然のことながら、直訳や単なる翻訳では、これは達成できません。日本語の情報を読んだときに日本人が感じるであろう「感覚」や受け取るであろう「印象」と、英語圏の人が英語で読んだときに感じる「感覚」や「印象」が近いものであることが理想です。もちろん、文化や考え方が異なるため全く100パーセントのものを再現することは不可能な場合がありますが、ギリギリまで最大限の努力をしたいものです。
とはいえ、逆に、全く同じ感覚やニュアンスを表現すること自体、あまり意味がないと思われる場合もあります。日本人特有の情感、国民性などがその例としてあげられるでしょう。日本文化の紹介をする場合などもそうですね。
しかし、ビジネス関連のメッセージなどで、「今後もさらなる技術革新や開発を重ね、前進してまいります」というのはどうでしょう?日本人なら、「企業の前向きな姿勢」として良い印象を受けるのかもしれませんが、英語圏の人となると、必ずしもそうではないようです。
かって、駆け出しのころ、ネイティブのライターとのやりとりで、「どうしてこんな当たり前のことを言うのか」と言われたことがあります。逆に「さらなる技術革新や開発もしません、今後は後退していきます」という企業があったら教えてほしいといった皮肉まじりのものでしたが、今にして思えば、なるほどとうなずけるものがあります。そんな当たり前のことを言う代わりに、「こういった具体的な技術を開発します」といった内容があれば、それこそ、「企業の前向きな姿勢」を感じ取ってもらえるのかもしれません。
ところが、日本語のメッセージとして考えると、これもエンディングの1つなのです。よく考えると当たり前かもしれないけど、入れることで「収まり」がいいわけです。逆に、英語から日本語への翻訳ライティングの場合、最後に入れてやるといいかもしれません。
次に、短いキャッチは短く、長めのヘッドラインは長めに、それがパンフレットなどの全体を通して統一されていることです。さらに、白場のスペース、グラフィックイメージ、文字の並びの作り出す全体のレイアウトイメージの調和… といった点も考慮する必要があります。まさにクリエイティブワークのベーシックですね。そして、それらを考慮しながら、単語や表現の選定、文章のボリュームなどを微妙に調整し、英文ライティングを進めていくわけです。
もっとも、クリエイティブ性やレイアウトイメージを追及するあまり、わかりにくい表現や稚拙な表現に走ってしまうというのではありません。ここで言う、「わかりやすい」というのは、あくまでも翻訳先の言語を母国語としている人(あるいはそれに近い人)、その言語に慣れ親しんでいる人を対象にします。そういった人にとって読みやすい、わかりやすいということを前提とするわけです。つまり、その言語があまり得意ではない人までを対象にすることはできないということです。習得レベルもまちまちであり、そこに合わせようとすると、稚拙な表現になってしまう恐れがあるからです。
「稚拙な表現」というのは、通常、成人が使用する表現レベルになっていないものを言います。日本の英語教育では、実用的な英文ライティングの訓練はしませんので、学生時代に習う英作文なども、このレベルに相当すると思われます。自分の若い頃の体験でもありますが、よく、「英語的には間違っていないはずなのに、なぜ、ネイティブにすべて書き直されてしまうのか」というのもここに理由があるわけです。
また、外国語を勉強していく段階で、自分が「優れた表現」だと思っていても、実際ネイティブから見ると「稚拙」な表現だったということもよくあります。よって、ある程度英語を解するクライアントさんのなかには、ご自分で書かれた文章などを提示され、これを使って欲しいというご要望をいただくことがありますが、ネイティブライターと検討のうえ、代案を出させていただく場合もあります。
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