コミュニケーション戦略の成功のカギはクリエイティブ・ライティング
ビジネスの業績を上げるには、とにかく商品を売って売上を増やし、ギリギリのコストダウンで経費をおさえ、利益を上げることだ――10年前くらいまでは、あちこちで耳にした考え方です。
しかし、今ではそんなスタンスでビジネスを成功させることはできませんね。そういうやり方しかできないビジネスはもうとっくに姿を消しているかもしれません。そこには、戦略もなければ将来のビジョンもないからです。
逆に言えば、今でも生き残っているビジネスというのは、将来に向けたビジョンや戦略を構築し、それに基づいて事業を展開しているはずです。また、全体の戦略の一部として「コミュニケーション戦略(方針)」を設定しているところもあるでしょう。
というのも、今や「グローバル」という言葉も使い古され、新鮮さがなくなるほど、「グローバルが当たり前」の世の中になっています。そして、当然のことながら、「グローバルな」運営に不可欠なのがグローバルなコミュニケーションであり、グローバルなコミュニケーションの土台となるのが、翻訳に基づいたクリエイティブ・ライティングだと言えます。
では、それに応じて、そこに重きをおくビジネスが増えたかというと、残念ながらそんなことはなく、あいかわらず、「たかが翻訳」というスタンスで、従来通りのやり方で進められているようです。つまり、
(1) 翻訳会社に依頼して上がってきたものをそのまま使用
(2) 翻訳会社に依頼して上がってきたものを英語のわかる担当者がチェックして完成
(3) 予算もないので、内部の英語の得意なスタッフなどに翻訳させたものを使用
といった3つのパターンです。
アウトソーシングする場合も、言うまでもなく「たかが翻訳」ですから料金も安いようです。それでも、内容的に平易なもの(あまりありませんが)や操作マニュアルなどの繰り返しの多いものであれば、安い料金でもなんとかまかなえるかもしれません。しかし、企業の「人となり」を伝えるための企業哲学、海外子会社に浸透させるための戦略やガイドラインといったものまで、それと同じ料金体系というのはどうでしょう?とてもじゃないですが、真剣にコミュニケーションのことを考えているとは思えません。失礼な言い方かもしれませんが、「あなたのビジネス戦略の価値はそれほど低いものなんですね」ということになってしまいます。
もちろん、そんなことはないはずですね。長い時間とエネルギー、人材と経費をかけて構築した戦略であり、方針であるはずです。それが「一発変換」で「しっかり通じる英語の文書」になるはずがありません。もし、そう思っている人がいれば、あまりにも「言語」というものを知らなすぎると言わなければなりません。
確かに、30年くらい前にはそういう人も多かったです。通訳する人に対して、「聞こえてくる日本語の単語をそのままどんどん英語に直したらいいんやろ?(何がむずかしいねん?)」。翻訳者に対しても「しかり」です。いみじくも、今それをやってくれるのが Google翻訳ですね。入力したものを瞬時に訳してくれます。でも、最近では英語を使える人が増えていますから、そんなものは使えないというのはわかっているはずです。
最近では、Google翻訳さんもかなり賢くなってきて、通じるレベルの文章を出してくれることも多いようです。それでも「ライティング」レベルにはほど遠いわけです。つまり、なんとなく意味は通じていても、「上っ面」の訳文にしかなっていないのです。
話は戻ります。ビジネスの戦略や方針の翻訳ライティングですが、安い料金で通りいっぺんの翻訳をした場合、おそらく「表面的な意味」は伝わるかもしれません。でも、それだけです。そこに込めた深い思想や意味、グローバルのスタッフの人にきちんと理解して実行して欲しい――という思いや熱意は伝わるものではないと思います。
その組織におけるいろんな事情もあるかもしれません。商品カタログやマニュアルは、商品が売れれば利益になるので、ある程度の予算が出せますが、企業の戦略や哲学などは「非生産部門」が担当しているので予算がない――といった理屈もあるかもしれません。
しかし、ビジネスのコアとなる部分があって、それがビジネス全体を引っ張っていくわけです。それが重要だとわかっていながら、その重要性を「予算」に反映できないのもおかしな話で、さらには、その身内の事情を翻訳ライティングというプロセスに背負わせて、「きちんとしたものを頼む。料金は安くして」というのであれば、これほど理屈に合わないことはありませんよね。
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