「通弁」クリエイティブ翻訳実験室
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「表現の研究開発」の取り組みを「クリエイティブ翻訳実験」としてご紹介。
カタイことは抜きにして、遊び心でお付き合いください。


 よくあるビジネス文書の出だし >> 「拝啓 貴社ますますご清栄のことと…」

「拝啓 貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。」

現実省略型
"Dear Mr./Ms. XXX,."

「まじめにやれ」とお叱りを受けそうですが、実際これが普通ですね。グローバルな舞台で活躍しておられるビジネス・ピープルの方にとっては、当たり前のことで、ことさら解説をする必要もないでしょう。

日本人の(日本語での)会話は、まず天気や世間話から始まります。冬だから当たり前なのですが、「寒いですねえ」などと言ってみたり、別に相手の商売のことを心配しているわけでもないのに、「もうかってますか?」「ぼちぼちですわ」(もうかっていてもこれです)といった習慣があるため、レターやメール文でも、いきなり本題には入りません。

正式な手紙文などになると、さすがに、「寒いですね」というのではカジュアルすぎるので、「○○のこととお喜び申し上げます」といった冒頭文が来ます。これをそのまま英語に表現して、えーっと「清栄」というのはどんな英単語がいいだろうか?などと悩むこと自体があまり意味のないようなことになります。実用的なビジネスの場面でそういう訳文を作る翻訳者もいないのではないかと思われます。

では、西洋人はこういった前置き (small talk) を全くやらないかというとそうでもありません。会って話をする場合などは、少しでも打ち解けたほうがいいという意味もあり、世間話をすることがありますが、メールやレターではお礼などの簡単なあいさつを済ませるとすぐに本題に入るのが普通です。

また、メールのやりとりにおいても、親しくなってくると、個人差はありますが、こういったスモールトークをしてから本題に入る場合もあります。しかし、いずれにしろ、それは、「○○のこととお喜び」するような形式的な関係ではありません。一般的には、すぐに本題に入る、これがビジネス・ライティングの基本です。

通常儀礼型
"Dear Mr./Ms. XXX, I'm very pleased to present our new idea for your promotional plan 2007, upon your request dated December 21, 2006."

すぐに「本題」に入るとは言え、どんな案件について話をするのかという前触れは必要で、「我々は貴殿のご意見には賛成です」というのでは、あまりにも唐突で、何のことかわかりません。相手が忙しい人なら、メールや手紙のやりとりをする相手も多くいるわけであり、自分の名前も覚えてもらっているとはかぎりません。どういった案件に対するどういう内容の発信なのか、前置きをしておくことが礼儀だとも思われます。

また、仕事の依頼をいただく立場であれば、前置きとして、「喜んで仕事をさせていただいております」といったニュアンスを出すのもいいでしょう。これは日本語でも同じです。

また、ダイレクト・メールなどで、直接、セレクトした相手に売り込みのメッセージを送るという場合であれば、下記のような表現法も考えられます。

飛躍売込型
"Dear Mr./Ms. XXX, I'm sending this special message only to a selected group of companies. I'm sure that our service would be a great help to your further success in the future."

つまり、「貴社の清栄を喜べる」のは、こうして弊社のサービスなり商品を紹介できるからというわけです。実際、利害関係ぬきに相手の会社の繁栄を喜べること自体が不自然ということです。

以上、いくつかの翻訳例をあげていますが、どれが正解だとか、これしかないというのではなく、あくまでも「表現の可能性」ということでご理解ください。

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