「今年も引き続き厳しい経営状況が続くと思われますが、心機一転、心を引き締めて、みなさんと共に希望ある明るい会社にしてゆきたいと思っております。」
説明表現型
"I suspect business situation remains hard this year. All of us, together, should brace ourselves up for a difficult time, with renewed spirit and determination, to make our company a brighter one filled with hope."
年頭の社長のあいさつなどで、よくあるパターンではないかと思います。とくに、景気が悪くなると増えてくるようです。日本企業では、「経営者、社員もろとも全社一丸となって頑張りましょう」といったレトリックが一般的で、それが日本という文化的土壌になっているわけですが、これをこのまま英語にするとどうでしょう?
英語圏の人の普通の感覚では、会社の舵取りは、すべて経営者の責任でしょうということになり、あたかも社員もその「舵取り」に参加すべきだといった表現は、責任回避とも取られてしまうかもしれません。
従来型の日本企業であれば、終身雇用が主流でもあり、それでよかったのかもしれません、いずれにしろ、日本企業の社長のあいさつなどを英語にする場合、デリケートな案件というわけなのか、いろんな人のいろんなチェックが入りますので、思い切った表現はなかなかむずかしいものがあります。
積極表現型
"Business may remain challenging this year. But where there is a will, there is a way, and you are here where there is a will. With a refreshed mind and spirit, I'm determined to break through hurdles at a management level, and I need your dedication to doing the same at each individual operation."
上の例文では、「引き続き厳しい状況が続くので気を引き締めて努力しましょう」ということだけで終わっていますが、それだけでは、聞いている社員にとって、ついていこうモチベーションの意味で物足りないのではないかと思われます。つまり、「厳しいが、社長自身も頑張る」、あるいは、「社長がきっと道は開かれると信じている」という前提があって、「みんなも頑張ってください」ということになるはずです。
ここでは、その前提の部分を表現してみました。「意志あるところには道あり、そして、みなさんは、その意志(社長の決意)あるところにいるのです(だから道はあるのだ)」というわけで、こういったものを挿入することは「創作」になるとして、良しとしない考え方もあります。しかし、英語圏の人は英語で読むのですから、少しでも英語らしいものにするには、ある程度こういった「つなぎ」を入れざるを得ないのです。
そして、その「つなぎ」として挿入した部分はチェックの段階で、クライアントさんにご確認いただき、適宜変更も加えながら、それこそ、いっしょに作り上げていくものだと思うのです。
飛躍実験型
"It will be another hard year for our business. But, this doesn't mean we can afford to just sit back and wait for a better time. We should buckle up ourselves for a rough and bumpy ride. I've renewed my determination to drive through a hard time to a brighter future, which, I believe, is sure to come. To do this, I need your understanding and dedication to make ourselves an even more wonderful, prosperous company that never stop shinning with hope."
また文章が長くなってしまいますが、上記で述べたことを踏まえて、より英語のスピーチらしくアレンジしたものです。アメリカ大統領などのスピーチを聞いていても感じることですが、ひとつのことを言うにも気の利いたレトリックをふんだんに取り入れ、同じリズムの文章を数回繰り返したりしながら、いかに、聞いている人に感動を与えるか、ということに尽力しているのがわかります。
また、聴衆もただ黙って聞いているのではなく、スタンディング・オベーションで拍手が入るなど、何度もスピーチが中断します。イギリスの首相がスピーチをしているときも、議会などであれば、「イエー」といった訳のわからない(?)掛け声が入ったりしていますが、英語のトップのスピーチというものは、やはり、それなりに効果的な表現をしていなければならないもののようです。それだけに、ゴーストライターというものが必要になるのです。
それに比べて、日本のトップのスピーチは、日本語の特性でしょうか、平坦で盛り上がりに欠けます。社長のあいさつなどというものは、退屈で面白くないものという印象が強いのではないかという気がしています。やはり、英語で表現するということは、その時点で、すでに英語圏の文化の影響を受けるわけで、ある程度、その影響の流れに沿ったほうが、より通じるものがあるのではないかと考えます。つまり、言語と文化というものは、切っても切れない縁があるというわけです。
以上、いくつかの翻訳例をあげていますが、どれが正解だとか、これしかないというのではなく、あくまでも「表現の可能性」ということでご理解ください。
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