Last update August 31, 2022
英語の冠詞はどこが難しいのか? (2)
悩ましい定冠詞の用例
まず、最初の例文を見てみましょう。
I took a taxi from Tokyo. The driver told me there was an accident.
driver という名詞に the がついているのですが、前の文章には driver は登場していませんね。なので、the は「前の文章にすでに登場した名詞につける」、「1つしかない唯一のものにつける」、「~というものはなどの総称につける」というようなルールを持ちだしてきても通用しません。もちろん、関係代名詞の限定用法でもありません。ではなぜ the がつくのでしょうか?
そうです。前の文章に taxi という名詞があるからですね。その taxi の driver なので限定・特定することが可能になり the をつけるわけです。このように、全く同じ名詞がすでに登場しているわけではないのですが、関連する名詞が登場しているので、どの名詞を指しているのか連想できるという用例もたくさんあります。
では、次の例はどうでしょう?
We arrived in a village. The church was on a hill.
この例文はある文献から引用したものですが、文法学者は、上の taxi と driver のように「連想できる」用例だとしています。ここで、「なるほど。どの村にも教会はあって、通常1つしかないので定冠詞だな」と納得できる人はいいのですが、日本人としては、ちょっと違和感を感じる説明かもしれません。
では、次はどうでしょう?いずれも、前述の情報のない独立した文章だとします。
- I saw a kitten in the garden yesterday. It was sleeping under the orange tree.
- I'm too tired to cook. How about going out to a restaurant?
- I'm thirsty. Shall we go to the pub for a quick drink?
- We need to go to the supermarket first.
- He picked up a photo and placed it on the wall.
まず、1. の in the garden ですが、いきなり出てきてなぜ定冠詞?会話の中に初めて登場する「庭」だから in a garden ではないか?という疑問が湧いてきますよね。また the orange tree も初めて登場するにもかかわらず the がついています。
ある英語ネイティブの説明によれば、確かに「庭」や「オレンジの木」は初めて登場するけれど定冠詞を使うのが普通なんだということです。「この話をしている相手にはどの庭かがわかっているし、私の庭にあるオレンジの木だとわかっているから」ということですが、では、それがわからない相手にとっては表現の仕方を変えるのか?というと疑問です。冠詞のわからない日本人にとっては、「まあそういうことなのかな」と無理やり納得するしかないのでしょうか?
次の 2. については、「レストランにはいろんな種類があるから不定冠詞を使う」ということで、3. については、「確かにどのパブかは特定していないが、それでも『典型的なパブ』を想定すれば定冠詞を使うのが普通」らしいです。また、4. の supermarket は「『どのスーパー』と特定しているわけではないが、典型的なスーパーを想定しているので、自分は定冠詞を使うが、不定冠詞でもいいと思う」というのです。レストランは不定冠詞でパブは定冠詞、スーパーはどっちでもいい?――なんだか混乱してきますよね。単語ごとに使う冠詞が決まっているのか?というと、そんなことはないはずですよね。もちろん、「少しでも理解してもらえれば」と一生懸命説明してくれているのはわかります。でも、すいません、わからないものはわからないのです。
5. の the wall に至っては、壁にもいろいろあるはずなのになぜ定冠詞?という疑問がわいてくるはずです。
しかし、「わからない」と思う一方で、こういう用例を見ていると「定冠詞」というものはけっこう「あいまい」に使われる場合があるのではないかという印象を受けます。そこで、乱暴かもしれませんが、「あいまい、どうでもいい定冠詞の用例」、転じて、「とりあえず定冠詞」というジャンルを作ってしまえばいいと思うのです。もちろんこれは、正式な文法的な区分けではなく、冠詞のわかりにくい私たちのために、特別に設定する便宜的なジャンルということにしておきましょう。
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