母音が変わった!大母音推移 (1)
大母音推移とは?
見るからにむずかしそうな言葉ですが、「だいぼいんすいい」と読み、中英語期の1350年ごろから近代英語期の1600年代、1700年代にかけて起こった「母音の大きな変化」のことを言います。そして、この母音の変化があったからこそ、現代のような発音になったわけです。
とはいえ、決してありがたい変化かというとそうとも言えません。古英語のスペルのところでも述べたように、昔の英語はスペルと発音がしっかり一致していました。
ところが、この母音の推移によって、現代英語のようにスペルと発音が一致しないという「学習者泣かせ」の現象が発生することになります。新しい発音に合わせたスペルの変更が追いつけずにそのままになってしまったわけです。同様の母音の推移を経験したドイツ語ではきちんとスペルの調整が行われています。
では、どんな母音の変化かというと、/iː/、/eː/、/ɛː/、/aː/、/uː/、/oː/、/ɔː/ の7つの長母音が変化したことを言います。そのプロセスをざっと説明すると、下の図のようになります。
まず推移は、大きく「第1フェーズ」と「第2フェーズ」に分かれますが、「第1フェーズ」は1350年ごろから1500年ごろにかけて、「第2フェーズ」が1550年ごろから1640年ごろにかけて起こり、その後に、推移による発音の同化や他の発音の変更などが起こります。
また、ここでいう「大母音推移」とは1700年代くらいまでの変化をさしています。つまり、それ以降も母音は現代の発音になるまで変化していきますが、1700年代以降の変化については、「大母音推移」には含まれません。
1./iː/ の発音の二重母音化
/iː/ の発音の変化は「第1フェーズ」に、まず /ei/ に変化し、次に /ɛi/ に変化します。さらに、その後、1600年代に /əi/ に変化し、近代になって /aɪ/ になります。これが現代の発音ですね。
2./uː/ の発音の二重母音化
/iː/ の発音の変化は「第1フェーズ」に、まず /ou/ に変化し、次に /ɔu/ に変化します。さらに、その後、1600年代に /əu/ に変化し、近代になって /aʊ/ になります。これが現代の発音です。
3./eː/ の発音のレイジング
「第1フェーズ」において、/eː/ の発音が /iː/ に変化します。/iː/ の発音が二重母音になったため、/eː/ の音が /iː/ に変化しますが、実際には舌の位置が上に上がると/e/ の音が /i/ の音になります。こういう変化を専門的な用語では「レイジング」(raising) と言います。
4./oː/ の発音のレイジング
同じく「第1フェーズ」において、/oː/ の発音が /uː/ に変化します。/uː/ の発音が二重母音になったため、/oː/ の音が /uː/ に変化しますが、実際には舌の位置が上に上がると/o/ の音が /u/ の音になります。
5./ɛː/ の発音のレイジング
/ɛː/ の発音が /eː/ の音にレイジングし、1700年代にはさらに /iː/ にレイジングし、上の3.の発音と同化するようになります。
6./aː/ の発音の二重母音化
/aː/ の発音が /æː/ の音にレイジングし、1600年代には /ɛː/、 1700年代には /eː/、1800年代には /eɪ/ という二重母音に変化していきます。
7./ɔː/ の発音の二重母音化
/ɔː/ の発音が /oː/ の音にレイジングし、1900年代には /oʊ/ という二重母音に変化していきます。
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