中英語の発音とスペル (1)
中英語の発音
まず、中英語の発音は、古英語の発音とくらべてどう変化したのかを簡単にみてみたいと思います。
これが、古英語の発音でした(クリックで拡大します)。
古英語から中英語にかけての変化
/æ/ と /ɑ/ が /a/ に統合される
古英語では区別していた /æ/ と /ɑ/ の母音が統合され、/a/ になりました。それに応じて、中英語のアルファベットからもこの文字がなくなりました。
母音を発音するときの唇の丸まりの緩和
全体的な傾向として、唇を丸めて発音する母音の場合の唇の丸まり方がゆるくなったと言われています。
最後の母音の長音化
「母音のみ」、「子音+母音」、「子音+子音+母音」の音節の場合の最後の母音の音が長くなるという傾向が見られました。これが、後のほうで説明する大母音推移 (Great Vowel Shift) をまねいたと言われています。
同じ子音が続く場合の音の長音化の消失
たとえば、roommate や midday などの「m」、「d」が2つ重なる場合、古英語では、その分発音する音が長くなっていましたが、その長音化がなくなり、「ルーメイト」、「ミッデイ」などのように発音されるようになりました。
音節の最後の弱い 「e」 が発音されなくなる
単語の語尾のアクセントのない e(/ə/ の音)が発音されなくなり、次に、音節の最後のアクセントのない e も発音されなくなりました。さらに、たとえば every などのように、e が子音をはさむ場合、強勢のないほうの e が発音されなくなるという現象が起きるようになります。つまり、古英語では「エヴェリー」のように発音していたものが「エヴリー」という発音になるわけです。
古い二重母音の消失と新しい二重母音の出現
古英語の二重母音が単母音化し、中英語期には、以下のような新しい二重母音が出現しました(表中の矢印は変遷を表しています)。
/iu/ | /ui/ | /ou/ → /ɔu/ → /uː/ | /eu/ → /iu/ | /oi/ → /ui/ | /ei/ → /iː/ | /ɔu/ | /ɛu/ | /ɔi/ | /ɛi/ → /ai/ | /au/ | /ai/
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2つ以上の音節が後に続く場合、母音の音が短くなる
古英語では、後に2つ以上の音節が続いた場合で、2つの子音の前にある母音の音が長くなるという傾向がありました。これが中英語になると、2つの子音が続かなくても、後に2つ以上の音節が続く場合はすべて短く発音されることになりました。これによって、現代英語でも次のような発音の違いが生じることになりました。
たとえば、divine では i の音が「アイ」と発音されますが、その派生語である divinity の i は「ディヴァイニティ」と発音されずに「イ」つまり「ディヴィニティ」と短くなるわけです。
divine 「ディヴァイン」 |
divinity 「ディヴィニティ」 |
school 「スクール」 |
scholarly 「スコラリー」 |
grateful 「グレイトフル」 |
gratitude 「グラティテュード」 |
h の発音の消失
night や taught など、古英語では(スペルは違いますが)発音されていた h の音が発音されなくなりました。
たとえば、night ですが、古英語では niht と綴り「ニヒト」のような発音をしていましたが、中英語では「ニート」になり、さらに、大母音推移を経て発音が変化し「ナイト」になったのです。
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