Last update May 29, 2021

新英語時代へ―― (2)

変化にまつわるミステリー(続き)

次に古ノルド語 (Old Norse) の影響について考えてみましょう。

古ノルド語の影響

8世紀のヴァイキング時代 (Viking Age) にイングランドにやってきたデーン人 (Danes) も元をただせばアングロ・サクソン人 (Anglo-Saxons) と同じゲルマン人 (German people) です。古ノルド語自体もゲルマン語から派生した言語であり、古英語とは「いとこ同士」のような関係です。つまり、古ノルド語においても、複雑さは薄れていたとはいえ、格変化などの語尾変化があったわけです。語彙もよく似ていたと思われます。

お互いに語尾変化のある言語同士が出会ったのに、どうして、語尾変化を失うという結果になったのか?これは非常に興味深い疑問ですね。なぜ語尾変化がなくなったのでしょうか?

それは、おそらくコミュニケーションするうえで、それぞれに変化する語尾の違いが混乱を与えたのではないかと言われています。単語自体が似ているだけに始末が悪いですね。デーン人とアングロ・サクソン人が話をしてみると、「いとこ同士」の言語であるだけにけっこう通じるわけです。でも「語尾変化」が微妙に違うので、誤解や摩擦の原因になったとも考えられるわけです。

これを強引に日本語の世界で表現してみると、単語の語尾変化というのは、意味的には日本語の「てにをは」になぞらえることができますので、以下のような展開も決して不可能ではありません(架空)。ちなみにデーン人は、アングロ・サクソン人とのコミュニケーションに熱心だったが、語尾の発音が苦手だったという説もあるようで…

デーン人: ハロー!ウェー・セージャス・ゲー(ワレワレハ オマエタチハ ハナス)。
アングロ・サクソン人: またオマエたちか。へたくそな英語しゃべりやがって…
デーン人: この森の木になる「エプル」はすべて、アングロ・サクソン人デーン人「ギベ」することにしないか?
アングロ・サクソン人: 「エプル」?ああ、「アプル」のことだな。「ギベ」は「ギブ」のことか。アングロ・サクソン人デーン人「ギベ」だな。よかろう。

といった感じで、同じような語尾があったが意味が違うということもあったかもしれません。そんなわけで、話がついたはずなのに、後になって、アングロ・サクソン人:「話が違うじゃねえか、この大ウソつき!」なんてことになるのです。単語自体は似ているので「アプル」と「エプル」は「リンゴ」、「ギブ」と「ギベ」は「与える」という意味は通じます。しかし、「が」と「に」があいまいだったらどうなるかですね。おそらく両者とも都合のいいほうに解釈するかもしれません。ということで…

アングロ・サクソン人: 英語のヘタなオマエたちのために「語尾」は取ってやろう。その代わり、主語が最初に来て、次に動詞、その後に目的語が来ることにしねえか?
デーン人: そりゃありがてえ、賛成!

てなことになったのかもしれませんね(ちょっと言葉使いが荒いですが、なんといってもヴァイキングですから)。

以上の2つ説のうち、おそらく「古ノルド語の影響」のほうが可能性としてはありそうですね。事実、その他の変化も含めると、「古ノルド語」の影響が最も大きいと言えるでしょう。とはいえ、英語の文章構造など「ケルト語の影響」も全くなかったとは言えないようです。


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