新英語時代へ―― (3)
その他の変化
では、古英語期におけるその他の変化についてみてみましょう。
語順の固定化
最初のページの「総合的言語からの脱却」でも述べましたが、複雑な格変化が(語尾変化)がなくなることで、これまでのような柔軟性のある語順が成り立たなくなってしまいました。そこで、主語か目的語かを正しく表現するために文章の語順が固定されるようになります。そのときに参考にしたのが、ブリトン人によって話されていたブリソン語 (Brythonic language) の語順でした。これにより、現代英語のような「SVC」、「SVOO」といった文章構造に発展していきます。
進行形の形成
現代英語ではすっかりおなじみの、「私は本を読んでいます」 (I am reading a book) どいうような「be 動詞 + ing」で表現される構文のことですね。こういった進行形 (progressive form) は、本来ゲルマン系の言語の特徴ではありません。このルーツはケルト語にあり、ブリソン語から入ってきた構文です。実際に、ケルト系の言語の影響を受けた地域の英語では、標準の英語以上にこの進行形を多用する傾向があります。たとえば、「世界の英語―スコットランド英語」でも紹介していますが、スコットランド人の英語は、スコットランド・ゲール語の影響で I'm wanting water といった言い方をすることもあります。
Do の助動詞用法
初めて英語の文章を目にしたとき、問題意識のある人は疑問を感じたかもしれません。たとえば、以下のような場合…
疑問文 |
I like apples. Do you like apples? |
否定文 |
I don't like apples. |
疑問文や否定文で、どこからともなく出現する do の存在ですね。なぜ do が必要なのか、You like apples? とか Like you apples? じゃダメなのか?否定文も not があれば否定だということがわかるじゃないか?なぜ I not like apples とか I like not apples じゃ間違いなのかということですね。
そう感じた人はなかなか鋭いというか、これもゲルマン系言語の本来の言い方ではありません。ちなみに、同じルーツをもつ現代ドイツ語と比較すると
疑問文 |
Ich (= I) mag (= like) Äpfel (= apples). Magst (= like) du (= you) Äpfel (= apples)? |
否定文 |
Ich (= I) mag (= like) keine (= no) Äpfel (= apples). |
となり、どこにも do らしきものは見当たりませんね。
実は、こういったゲルマン語にない do の用法も、上であげたブリソン語の影響によるもので、同じゲルマン系の言語でありながら、他の同族言語にはない英語のユニークな特徴になっているといえるでしょう。
以上のような変化を遂げながら、古英語は中英語期へと進化していくのです。
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