新英語時代へ―― (1)古英語期の概要でも述べましたが、アングロ・サクソン人しかし、それが中英語 総合的言語からの脱却まず大きな変化として、複雑な格変化や人称ごとの動詞の活用がなくなり単純な文法を持つようになったことがあげられます。専門的には、総合的言語この変化によって、英語は語順に依存する言語になっていきますが、同時に、そのシンプルさから普及しやすく世界の共通語への道が開けたのかもしれません。 変化にまつわるミステリーでは、どのようにしてこの変化が起こったのか――を考えてみましょう。それには、2つの説が考えられます。まず1つめは、ケルト語ケルト語の影響古英語の時代とは、アングロ・サクソン勢力が先住民であったケルト民族ブリトン人ところが、古英語は支配民族であるアングロ・サクソンの言語ですから使わないわけにはいきません。そのころの古英語では、すでに語尾変化も比較的シンプルになっていたという事実もありますが、完全になくなっていたわけではありません。慣れていない人々にとっては、いちいち単語が語尾変化するというのはわずらわしく感じられ、そんな言語の習得は簡単ではないはずです。日本人がいきなりドイツ語を覚えろと言われるのと同じですね。 ということで、古英語をマスターできないブリトン人が、自分たちの言語にない格変化などを省略したり、カタコトの英語を使っていたことが、古英語の単純化につながったというわけです。 これを強引に日本語の世界で表現してみると、単語の語尾変化というのは、意味的には日本語の「てにをは」になぞらえることができますので、
というような言い方がはびこっていたのかもしれません。 とはいえ、弱い民族の言語が、逆に強い民族の言語に影響をおよぼすことがあるのかという疑問がわいてきますが、ブリソン語と英語の関係においては、いちがいに否定できないようです。アングロ・サクソン人がブリトン人を強引に「征服」したと言うよりは、互いに同化しながらアングロ・サクソンという統一民族になったとも言われており、そういったところも影響しているのかもしれません。後に紹介する「その他の変化」でもそうですが、英語が複雑な語尾変化のない「分析的言語」になってからの文章の語順は、ブリソン語の文章構造の影響を受けているという指摘があります。 |