Last update May 29, 2021

古英語期(450~1100)(Old English) (2)

現代人にはわからない古英語

古英語には主に4つの方言があったようです。それは、アングロ・サクソン人が建てた7つの王国 (Heptarchy) のうち、それぞれマーシア (Mercia)、ノーサンブリア (Northumbria)、ケント (Kent)、ウェセックス (Wessex) で話されていたもので、なかでも、古英語の文学的な基礎を築き上げたのがウェセックスで話されていたウェスト・サクソン方言でした。そして、中英語や近代英語の形に最も影響を与えたのがマーシア方言だと言われています。

また、古英語に最も近かった言語が古フリジア語 (Old Frisian) や古サクソン(ザクゼン)語 (Old Saxon) でしたが、私たちがイメージする英語とはまったく違います。同じ「英語」という言葉を使っていても、別の言語ほどの違いがありました。よって、現代人がみても理解できるものではありません。

文法はどちらかというと現代のドイツ語に近く、名詞、形容詞、代名詞、動詞などの品詞が語尾変化や活用をします。詳しくは、こんなに違う古英語の文法を参照してください。専門的には総合的言語 (synthetic language) と言いますが、1つ1つの品詞の語尾などが変化するため語順が自由になります。それに対して、現代の英語は分析的言語 (analytic language) と呼ばれ、各品詞の変化がないので、語順が固定されます。つまり、順序を変えると別の意味になってしまうわけです(あるいは意味をなさないものになります)。さらに、古英語で使われていた語彙の約80%は、現代ではもう使われていません。

次に、古英語で使われていた文字についてですが、最初から現代のようなアルファベットが使われていたのではありません。初期のころの古英語では、ルーン文字 (runic description) という文字が使われており、現代のようなアルファベットが使われるようになったのは9世紀になってからです。

デーン人の侵攻

8世紀になると、ヨーロッパはヴァイキング (Vikings) による侵略が行われたヴァイキング時代に入ります。ブリテン島にも、デーン人 (Danes) が到来し、略奪や破壊を繰り返します。このデーン人がもたらしたのが古ノルド語 (Old Norse) で、英語の形成に大きな影響を与えました。

こうして侵略民のデーン人と先住民のアングロ・サクソン人との戦いが続きますが、878年になるとウェセックス (Wessex) 王アルフレッド (Alfred the Great) が勝利をおさめ、デーン人との間にウエドモー条約 (Treaty of Wedmore) を結びました。この条約は、ロンドンとチェスターを結ぶ線の東側をデーン人の領土として認めるが、それ以上侵入することを禁止するというもので、その地域はデーン人の法律にしばられることからデーン・ロー (Danelaw) と呼ばれました。さらに、アゼルスタン (Æthelstan; Athelstan) が即位すると、デーン・ローを取り戻し、927年にイングランドの統一を果たしました。

しかし、980年になると再び侵入が始まり、デーン人がたび重なる勝利をおさめ、ついに1016年、クヌート王 (Canute the Great) がイングランドを征服し、その王を兼ねるようになります。こうしてアングロ・サクソン人を取り込み、イングランドとデンマーク、ノルウェーの3つの国からなる北海帝国 (North Sea Empire) という国家連合が誕生します。

ノルマン人の征服

しかし、この北海帝国も長くは続きませんでした。クヌートは、イングランド王エゼルレッド2世 (Ethelred the Unready) の未亡人であったエマ (Emma of Normandy) と結婚し、カヌート3世 (Canute III) をもうけますが、即位して2年後に急死します。そこで、1042年にエマとエゼルレッド2世との間の息子エドワード証聖王しょうせいおう (Edward the Confessor) が即位しますが、1066年に死亡。その後を継いだのが、ハロルド2世 (Harold II) でしたが、ノルマンディー公 (Duke of Normandy) と戦って敗れ、ここにアングロ・サクソンの血を引く王家の系図はとだえることになります。

これが、ノルマン人の征服 (Norman Conquest) です。これによって、ノルマンディー公 (Duke of Normandy) ウィリアム (William the Conqueror)イングランド王ウィリアム1世 (William I of England) として即位し、宮廷や政治・法律の分野において、ノルマン人の言語であるアングロ・ノルマン語 (Anglo-Norman language) が話されるようになります。


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