英語の起源ゲルマン語 (1)
ゲルマン語とは?
ゲルマン語 (Germanic languages) とは、ゲルマン民族 (Germanic peoples) が話していた言語です。そう言ってしまえば元も子もないのですが、そのルーツは、インド・ヨーロッパ語族 (Indo-European languages) で、ケルト語やラテン語と同じですね。そうです、世界の多くの言語がこのインド・ヨーロッパ語族に属しているわけです(日本語は違います)。もちろん、英語もそうです。古英語期の概要でも述べていますが、ゲルマン語から派生したのが英語なのです。
ここでは、英語のルーツとなったゲルマン語について少し学んでみたいと思います。まず、インド・ヨーロッパ祖語 (Proto-Indo-European) からケルト語やラテン語をはじめとするさまざまな語群に分かれ、そのうちの1つがゲルマン祖語 (Proto-German) です。他のページでも述べていますが、言語学で「祖語」というのは、同じ語族の言語から逆に類推して想定された「共通の祖先」である言語という意味です。
そしてそこから西ゲルマン語群 (West Germans)、北ゲルマン語群 (North Germans)、東ゲルマン語群 (East Germans) という3つの語群に枝分かれします。この分岐が始まったのは、紀元前1世紀ごろだと考えられますが、10世紀ごろには、分岐した言語間での意思疎通が不可能になっていたようです。同じ親からできた言語も千年もたつと、まったく話の通じない赤の他人になってしまうということですね。
西ゲルマン語群
では、分岐した3つの語群についてみていきましょう。まず西ゲルマン語は英語のルーツとなった語群ですが、鉄器時代 (Iron Age) のヤストロフ文化 (Jastorf culture) 後期に形成されたと考えられています。西ゲルマン語群はさらに、エルベゲルマン諸語 (Elbe Gernamic languages)、ウェーザー・ラインゲルマン諸語 (Weser-Rhine Germanic languages)、北海ゲルマン諸語 (North Sea Germanic languages) の3つの流れに分類されます。エルベゲルマン諸語からは、上部ドイツ語 (Upper German) が生まれ、ウェーザー・ラインゲルマン諸語からは、フランク王国を建てたフランク人 (Franks) の言語であるフランク語、そして中部ドイツ語やオランダ語に発展しています。
北海ゲルマン諸語からは、原始サクソン語 (Primitive Saxon) とアングロ・フリジア語群 (Anglo-Frisian) が派生しますが、アングル人、ジュート人、サクソン人が話していた言語もこのアングロ・フリジア諸語に属します。そしてそこから、原始アングル語 (Primitive Anglic) をへて古英語 (Old English) が誕生し、「中英語(中期英語)」、「近代英語」、現在の英語に発展していくわけです。
さて、ここで、言語学的にとても重要な事件が起こります。それは、民族大移動時代 (Migration Period) に南部で起こった「子音の推移」 (High German consonant shift) という現象です。つまり、「シープ」が「シャーフ」になったり、「ブック」が「ブーフ」になるような子音の変化です。この変化を経験したゲルマン語とそうでないゲルマン語があるということで、分類上の名前がつけられているわけです。
推移を経験したドイツ語をまとめて「高ドイツ語」 (High German) と呼んでいますが、「上部ドイツ語」、「中部ドイツ語」もここに含まれます。言い換えれば、エルベゲルマン諸語とウェーザー・ラインゲルマン諸語のドイツ語が推移を経験した言語だということで、これを経験していないドイツ語が、北海ゲルマン諸語の「中低ドイツ語」 (Middle Low German) というわけです。もちろん、オランダ語や英語もこの推移の影響は受けていません。
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