こんなに違う古英語の文法 (4)
動詞の語尾まで変化する?
三人称単数の「s」や過去形、過去分詞形もあって英語の動詞ってややこしい!――なんて言ってられません。古英語の動詞の活用はもっと複雑です。
むしろ、フランス語やスペイン語などのヨーロッパ言語の動詞の活用ではあたり前のことで、英語の動詞の活用がシンプルすぎると言わなければなりません。
つまり、どういうことかと言うと、三単現の「s」どころか、「私、あなた、彼、彼ら…」といった人称代名詞に合わせてそれぞれ変化するのです。しかも、時制も「現在と過去」だけではありません。「直接法」、「接続法」、「命令法」といった「法」(mood) も含めて、それぞれが人称代名詞ごとに変化します。図にしてみると、次のようになります。
たとえば、「私」だけでも、「不定詞~過去分詞」までの動詞の変化があるわけで、単純計算すると全部で「8×4=24」種類の動詞の活用があることになりますが、同じ活用形が多いので覚えるのはもっと少なくなります。ちなみに、ヨーロッパ言語などでは、「時制」に「未来」もあり、「複数人称」の部分は「私たち、あなたたち、彼ら」などに分割されますから、もっと活用の数は多くなります。
では、具体的な例をあげてみましょう。古英語の動詞活用のパターンには大きく2種類あり、「強い動詞」(strong verb)、「弱い動詞」(weak verb) と呼ばれていますが、パワーが強い弱いという意味ではなく、変化の度合いが強いか弱いということで、ざっくり「不規則動詞」、「規則動詞」と考えていただけばいいでしょう。ここでは、「強い動詞」である stelan (「盗む」)と「弱い動詞」である sƿebban (「眠らせる」)という単語を活用させてみると以下のようになります。
時制・法 |
人称代名詞 |
stelan |
sƿebban |
不定詞 |
stelan |
sƿebban |
tō stelanne |
tō sƿebbanne |
直接法現在 |
私 |
stele |
sƿebbe |
あなた |
stilst |
sƿefest |
彼/彼女/それ |
stilð |
sƿefeþ |
複数人称 |
stelaþ |
sƿebbaþ |
直接法過去 |
私 |
stæl |
sƿefede |
あなた |
stǣle |
sƿefedest |
彼/彼女/それ |
stæl |
sƿefede |
複数人称 |
stǣlon |
sƿefedon |
接続法現在 |
私 |
stele |
swebbe |
あなた |
stele |
swebbe |
彼/彼女/それ |
stele |
swebbe |
複数人称 |
stelen |
sƿebben |
接続法過去 |
私 |
stǣle |
sƿefede |
あなた |
stǣle |
sƿefede |
彼/彼女/それ |
stǣle |
sƿefede |
複数人称 |
stǣlen |
sƿefeden |
命令法 |
私 |
stel |
sƿefe |
あなた |
stel |
sƿefe |
彼/彼女/それ |
stel |
sƿefe |
複数人称 |
stelaþ |
sƿebbaþ |
現在分詞 |
stelende |
sƿefende |
過去分詞 |
(ge)stolen |
sƿefed |
前ページ | 次ページ
|