迂言的受身
スペイン語の受動態の特徴においても、この受身形はスペイン語ではあまり使われないということを述べましたが、特殊な例として、この受身形を使用することが便利な場合や、話の流れから自然な場合があります。
たとえば、「ピカソ」と「ゲルニカ」を例にとって考えてみましょう。現実世界のひとつの現象として捉えた場合、「ピカソ」は行動主で「ゲルニカ」は受動主ということができます。言い換えれば、デフォルトの状態では、行動主である「ピカソ」により重み付けがある(焦点が当たっている)ということで、迂言的受身とは、この重み付けを逆転させるという役割があると考えることができます。
よって、前後に特別な脈絡がなく、「ピカソがゲルニカを描いた」ということを述べるのであれば、
Picasso pintó el Guernica.
(ピカソはゲルニカを描いた。)
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という能動態になるのですが、これが、「ソフィア王妃芸術センターに行ってゲルニカを見てきた」とか、「ゲルニカは戦争の悲劇を描いた作品だ」といった話題のなかで、「ではその作者は?」という流れになったとき、「ピカソがゲルニカを描きました」というのもいいのですが、何となくしっくり来ない感じがあります。「ゲルニカ」に話の焦点がありますので、
El Guernica fue pintado por Picasso.
(ゲルニカはピカソによって描かれた。)
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と表現したほうがスムーズに話が流れるわけです。もうひとつ例を挙げてみましょう。
El hombre murió y fue enterrado sobre la colina.
(その男は死んで、丘の上に埋葬された。)
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このように、文章を続ける場合、すでに
El hombre が主語としてスタートしていますので、できればこの主語をそのまま引き継いで表現したほうが流れがスムーズになります。言い換えれば、話の焦点が
El hombre にあるということで、この焦点をそのまま維持したほうが、文章として自然であると言えます。
また、ここで注意したいのは、
スペイン語の受動態の特徴でも述べていますが、スペイン語では、受身文として主語にできるのは、直接目的語だけだということです。下の例を見てみましょう。
英語:
He (S) gave (V) me(OI) some books (OD).
OK: Some books were given to me by him. (直接目的語を主語)
OK: I was given some books by him. (間接目的語を主語)
スペイン語:
Él (S) me (OI) dió (V) unos libros (OD).
OK: Unos libros fueron dados a mí por él. (直接目的語を主語)
NG: Yo fue dado unos libros por él. (間接目的語を主語)
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英語であれば、
some books(直接目的語)を主語にした文と、
me(間接目的語)を主語にした2種類の受身文が成り立ちますが、スペイン語では、間接目的語を主語にした受身は存在しません。よって、この場合は、
(Él) Me dió unos libros.
と能動態で表現するのが普通です。あるいは、「私」に焦点があるため、そのまま「私」という主語で文章を続けたい場合は、
Yo fui el (la) que recibí unos libros.
(私が本を受け取った者だ)
などと文章を書き換えてしまうという方法もあります。