原文に忠実とは?原文がどう変わるのか?のページでは、「通弁」クリエイティブ・ライティングによって変わる「原文」との直訳は忠実か?まず最初に、直訳すれば原文に忠実と言えるのかを考えてみたいと思います。直訳の定義と弊害でもみてきましたが、原文と翻訳が一字一句、「1対1」で対応しているとしたら、その翻訳は果たして原文に忠実と言えるでしょうか。確かに、文章の構造や順序などは原文のものをそのまま再現しているので、形という見た目では忠実と言えるでしょう。原文の文章構造を忠実に再現しているということです。 しかし、翻訳先言語において、本来伝えるべきことは「文章構造」ではなく「そこに書かれた情報やメッセージ」であることは言うまでもありません。よって、メッセージの「入れもの」だけを一字一句忠実に訳しただけでは、原文の本当の「意味」や「メッセージ」を忠実に伝えているとは言えません。 そもそも、日本語と英語のように文章の構造や発想が大きく異なる両言語間で、ワードやセンテンスごとに逐一対応するというのがおかしいのです。対応している場合、どこかで自然な文章の流れを無視しているか、その言語において不自然な表現になっているかもしれません。 不自然な表現になっているといれば、当然読みにくくわかりにくいものになっているわけです。つまり、「直訳」では原文の「真意」が伝わるどころか、原文の内容が直接伝わらない、持って回った言い方になる可能性があるのです。 原文の真意に忠実であることでは、細かい一字一句は無視すればいいのかというと、もちろんそれは違います。その一字一句には、原作者の意図するところが表れているわけですから、決しておろそかにすることはできません。句読点も含めて、細かく読み込み、微妙なニュアンスをつかまなければなりません。しかしそれは決して、一字一句をそのままダイレクトに表現するということではないのです。いちばん大切なことは何か?それは、原作者がそれらの一字一句を使って何を言いたいのかということです。表現しようとしているメインの情報やメッセージに焦点を当てるわけです。そのメインの情報を筆者はどのような態度やスタンスで伝えようとしているのか、読者にどう受け止め、感じ、行動して欲しいのかをしっかりと読み取り、翻訳先の言語でじっくりと文章を練りながら最適な表現でそれを伝えていくことが、本当の意味で「原文に忠実であること」ではないでしょうか。 トップダウンとボトムアップで、大胆かつ慎重にこれは翻訳や文章表現だけでなく、いろんなことについて言えることですが、物事には「トップダウン」と「ボトムアップ」の視点やアプローチがあります。上から全体を見わたす「トップダウン」ばかりでも、個々の部分の状況や姿が見えません。かと言って「ボトムアップ」だけでも全体の統制やバランスを取ることができません。両方を組み合わせてこそ「完全な状態」に近づくと言えます。「翻訳に基づくライティング」でも同じです。脈絡に照らし合わせながらざっくりとポイントをつかみ(トップダウン)、じっくりディテールを読みこみます(ボトムアップ)。より効果的な文章をめざして大胆に表現しながら慎重に検証するのです。この「トップダウン」と「ボトムアップ」のバランスが非常に大事であり、経験や感性による「さじ加減」とも言えるでしょう。 ライティングの用途やねらい、クライアントさんのニーズなど、さまざまなパラメータに応じて、その「さじ加減」を調整しながら、本当に伝えたいことを読みやすく効果的に表現するのが「通弁」のクリエイティブ・ライティングです。 |