Last update August 31, 2022
英語の冠詞はどこが難しいのか? (4)
「とりあえず定冠詞」用法 (2)
前ページでは、1つの用例を挙げながら「あいまいな定冠詞」について考えてみましたが、ここでは、そういった用例を深めてみたいと思います。
まず、なぜ「とりあえず定冠詞」なのかというと、「不定冠詞では違和感がある」からでした。しかし、それだけでは不十分なため、同時にいくつかの要素を考慮する必要が出てきます。それをまとめると以下のようになります。
図中の各要素は、それぞれ独立しているのではなく、混ざり合い混沌とした状態で存在すると考えてください。人によっても感じ方が違いますので、いちがいに「この用例はこのパターンに当てはまる」といった明確な分類・線引きはできないと考えたほうが混乱が少ないからです。
では、次の用例について考えてみましょう。
- I'm too tired to cook. How about going out to a restaurant?
(疲れてるので料理できないよ。レストランに行かない?)
- I'm thirsty. Shall we go to the pub for a quick drink?
(喉が渇いた。パブで一杯どう?)
ここで疑問に思ってしまうのは、「〇〇に行く」という場合に、「レストランは不定冠詞なのになぜパブは定冠詞?」ということですね。もちろん「そこにパブがある」というときは、There is a pub there. となり不定冠詞なのですが、「パブに行く」という脈絡のときは定冠詞が一般的なのです。
ちなみに、ネットを検索していたら、次のような文章が出てきましたが、「~に行く、~で会う」のように前置詞の後に来る用例の場合、pub は定冠詞で restaurant は不定冠詞が使われています。
How many people can you meet at the pub or a restaurant?
これはまず、名詞ごとにその使われ方が違う、つまり、そういうふうに習慣的に使われているのだという考え方ができそうです。また、レストランと異なり、行きつけのパブがある場合が多いので「行きつけのパブ」という意味で定冠詞なのかとか、「お酒を飲んで軽食を食べる場所」という機能・役割を抽象化した「パブ」なのかといった考え方も成り立つかもしれません。そこは追求しても正確なことはわからない(歴史的にそれを説明する文献もない)ので、前置詞+ pub/restaurant の場合は、pub は定冠詞で restaurant は不定冠詞が多いと理解するしかありません。解明するとは言え、そのまま覚えてしまわなければならない部分もあるわけです。
では、次の用例です。
We need to go to the supermarket (bank/post office) first.
(まずスーパー(銀行/郵便局)に行かなくちゃならない。)
このタイプの用例で多いのは、「どのスーパー(銀行/郵便局)に行くか具体的に思い浮かべている」、あるいは「町には銀行や郵便局は1つしかないので特定される」といった説明ですが、そうとも限りませんね。ちなみに、「その名詞が何か特別な意味を持っていない場合は定冠詞を使用する」という説明もあり、むしろ、こちらのほうが実用的な説明になっていると思います。つまり、その名詞の持つ機能や役割を抽象化・概念化しているわけです。「駅前にある〇〇銀行」といった具体的な銀行ではなく、たとえば「お金が引き出せたり、振り込みができればいい」という意味の「銀行」なのです。
次の例はこれです。
He picked up a photo and placed it on the wall.
(彼は写真を一枚取り上げてそれを壁に貼った。)
ここの「壁」も実際にはいろんな壁があるわけです。キッチンの壁なのか、居間の壁なのか、キッチンの壁だとしても、ドア付近の壁なのか、冷蔵庫付近の壁なのか、西側の壁か東側の壁か… など言い出したらキリがありません。ある文法学者の意見では、どっちの壁などということはどうでもいい(人々の好奇心をそそらない)のでとりあえず「特定可能」ということにしておくのだというわけです。
確かに、そこまでこだわる人がいるのかどうかですね。まあ、犯罪捜査などでは「どの壁」かは重要かもしれませんが、普通の会話で「もらった写真、さっそく壁に飾ったよ」「へえ。で、どこの壁?」「キッチンの壁だ」「キッチンのどの壁?」などとなると「ウザイ奴だな」ということになりかねません。そこまでこだわる必要もないし、誰もそこまで知りたいと思わないし、そこまで言う必要もないわけです。だから、「どれを指すかわかったことにする」わけです。また、「壁」を「何かを貼ったり飾ったりする場所」として抽象化するという考え方も成り立つでしょう。
同様の用例として、corner、side などもそうですね。また、「手を怪我した」とか「椅子の足が壊れている」というも、どの手や足かまでは気にしないのが普通ですね。injured in the hand、the leg of the chair is broken などと定冠詞で代表するのが普通です。もちろん、怪我などの場合、どっちの手足か気になることもあるので、「壁」といっしょくたにすることはできませんが、いずれにしろ最初の出だしの文章では「手を怪我した、足を怪我した」となり、どっちの手足かは言わないことが多いのは日本語も同じですね。
次の例です。
One day, the old man visited the town.
(ある日のこと、老人が街にやってきた。)
これもいきなり the old man と定冠詞付きの名詞で始まっている例ですが、物語・小説などの書き出しでよく見られる例です。別にこの old man や town がこれ以前に登場するわけではないのですが、この old man についてのトピック(物語)が展開されるということで、定冠詞がついているのです。the town にしても、特定する周知の town ではないのですが、この物語の世界観の中では特定されているというふうに解釈するわけです。
以上、「あいまいな定冠詞」の用法についてざっと見てきましたが、これ以外の用例もたくさんあると思います。いずれにしろ、「不定冠詞では違和感がある」ということと、それ以外に挙げた要素に影響され、定冠詞が使われている例だと言えます。
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