もうひとつの受身表現
スペイン語は能動的な視点を持った言語であるということ、
ser/estar を用いた複合的な受身形は好まないということを述べましたが、「行動主」がわからない場合や、わかっていても言及したくない、ぼかしておきたいという場合によく使われるのが再帰的受身 (
pasiva refleja) という受身表現で、
再帰代名詞の3人称
se を使って構築します。
また、迂言的受身と同じように、主語となる名詞句 (
muchas cosas; el edicifio) と動詞 (
hablaron; estableció) は、単数複数の一致をさせる必要があります。
Se hablaron muchas cosas en la reunión.
(会合では多くのことが話し合われた。)
Se estableció el edicifio en 1970.
(その建物は1970年に建てられた。)
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ところが、この受身形は、用法的に、あらゆる受身表現に対応するという万能なものではありません。つまり、再帰代名詞の3人称を用いることからも、主語となる受動主が三人称であるときにしか使用できません。しかも、主語となる受動主は人間ではなく「物」に限られます。
では、3人称以外の再帰代名詞を用いて、3人称以外の受動主を主語にした受身形は作れないのか、あるいは、人間を主語にしたらどうなるのか、といった疑問が出てきます。確かに、そのような文章を作成することは可能です。しかし、それはもはや「受身」ではなく、
再帰表現などの別の表現になってしまいます。
また、
se の用法のところでも紹介していますが、再帰代名詞の
se の用例は「受身」だけではありません。「受身」的な用例は、あくまでもその一部に過ぎず、再帰・相互表現をはじめ、無人称表現、独特のニュアンスを表したりなど、さまざまな用例があります。
というようなことから、この再帰的受身という形は、どうも「受身形」としては純粋で完全なものとは言えないようです。あくまでも、受身的な内容を表現するための「受身の代用形」とでもしておいたほうが適切かもしれません。そういう意味では、「
ser/estar +過去分詞」を使った複合的な形が純粋で万能な「受身形」と言えるわけです。しかし、上でも述べたように、どっこいこの表現は好まれないということになり、一体スペイン人の「受身」に対する考え方はどうなのかということになりますが、純粋な受身なんてどうでもいい、わざわざ消極的な表現をする必要はない―といった心理が感じられるような気がします。
よって、スペイン語らしい表現にするには、受動態にこだわらず能動態を用いるなどの工夫が必要です。能動態以外のニュアンスを持つ内容をスペイン語でどう表現するかは、
スペイン語の受身表現法で説明しています。