Last update May 29, 2021

前史時代 (Prehistory) (1)

ヒト族がやってきた…

時は石器時代――ヨーロッパにはすでにヒト族 (homini) が住んでいました。今から200万年~150万年前のこと、アウストラロピテクス・ガルヒ (Australopithecus garhi) などのヒト族が、故郷のアフリカを後にし、ヨーロッパやアジアに次々と移り住むようになったのです。そして、旧石器時代 (Paleolithic) の前期から後期にあたる約180万年~2万年前にはホモ・エレクトス (Homo erectus) ネアンデルタール (Neanderthal) などの種族が登場します。

ブリテン諸島 (the British Isles) にも多くのホミニ(ヒト族)がやってきました。ちなみに、当時はまだブリテン島 (Great Britain) がヨーロッパと陸続きでした。彼らの存在を証明するものとして、70万年前のホモ・アンテセッサー人 (Homo antecessor) の足跡や50万年前のホモ・ハイデルベルゲンシス人 (Homo heidelbergensis) の化石、そして40万年前のネアンデルタール人の化石などが発見されています。

その後、今から18万年~6万年前の間、極寒気候のため誰も住んでいない状態が続きましたが、約4万年前にはホモ・サピエンス (Homo sapiens) が登場。1823年に発見された「パヴィランドの赤い婦人」 (Red Lady of Paviland) と呼ばれる人骨は33,000年前のものと推定されています(その後の研究で人骨は若い男性であることが判明しました)。

突然やってきた津波

最後の氷河期 (the Ice Age) も終わり、この地には約5千人ほどの狩猟採集民族が住んでいました。そんなある日のこと、突然の津波がやってきます。史上最大規模の破壊力をもつこの津波により、これまでブリテン島とヨーロッパをつないでいたドッガーランド (Doggerland) が水没、ヨーロッパ大陸とは完全に切り離されてしまったのです。紀元前5100年のことでした。

時は流れ、新石器時代 (Neolithic) へ。新石器革命 (Neolithic Revolution) が起こり、人々は獲物を追って移動する生活から、特定の場所に定着して農耕や牧畜を営むようになります。

そして、青銅器時代 (the Bronze Age) には、ビーカー陶器に代表されるビーカー文化 (Beaker culture) が伝播します。また、ストーンヘンジ (Stonehenge) が完成したのもこの青銅器時代とされています。

鉄器時代 (the Iron Age) になると、ライン川 (Rhine River) やドナウ川 (Danube River) 流域を起源とするケルト人 (Celts) の移民がさかんに行われるようになります。こうして、ブリテン諸島に定着した人々によって築かれたケルト社会は、紀元1世紀のローマによる征服まで繁栄しました。

どんな言語を話していたのか?

旧石器時代に登場したホモ・エレクトス人やネアンデルタール人はまだ言語を持っていませんでした。脳のブローカ野 (Broca's area) やウェルニッケ野 (Wernicke's area) など言語や発話に関連する領域、呼吸を制御する機能が十分に発達していなかったからです。おそらく、声を出したりジェスチャーを使って意思の疎通を図っていたと考えられています。ヒト族が本格的な言語を使いこなすようになったのは、旧石器時代後期から中石器時代 (Mesolithic) 、ホモ・サピエンスが出現してからのことでした。

たとえば、新石器時代後期から青銅器時代初期(紀元前4500年~2500年)のころ、ポントス・カスピ海草原 (Pontic–Caspian steppe) では、インド・ヨーロッパ祖語 (Proto-Indo-European language) と呼ばれる言語を話す人々が住んでいました。この言語は、8つあるいは9つの名詞の(case) と男性、女性、中性の3つの性を持った屈折語 (fusional language) で、英語をはじめ、世界の大半の言語はこの言語から発展したものです。

やがて、ブリテン諸島にも、この言語から派生した言葉を話す人々がやってくるようになります。それが、ケルト語を話す人々でした。


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