Last update May 29, 2021

こんなに違う古英語の文法 (2)

名詞に「性」がある

古英語では、ルーツであるゲルマン語の特徴が多く残されています。名詞の性 (grammatical gender) があるのもその1つで、ゲルマン祖語 (Proto-Germanic) と同様に、「男性」 (masculine) 、「女性」 (feminine) 、「中性」 (neuter) の3つの性があります。

男性名詞 女性名詞 中性名詞
例)se mōna 「月(天体)」 例)sēo sunne 「太陽」 例)þæt scip 「船」

上の表の名詞の前についている sesēoþæt は、それぞれ男性名詞、女性名詞、中性名詞の単数形・「主格」 (nominative case) につく定冠詞です。これらの名詞が複数になったり、前のページでみた格変化を行った場合は、それに応じて定冠詞の形も変わってきます。

それはさておき、古英語の場合は、他の言語のように名詞の性を決めるルールがあったわけではありません。自然の性に一致していたわけでもなく、男性名詞は語尾が -a で終わるといった目安的なルールがあったわけでもなく、単語ごとに1つ1つ「男性か女性か中性か」というのを覚える必要があったのです。たとえば、女性単数名詞には女性単数形の形容詞や冠詞を使うといった「一致」のルールがあったため、名詞の性を知ることは文章表現のために必須だったわけです。

だから、せめて「女性」に関する名詞の性はすべて女性であればわかりやすいのですが、どっこいそうはいかない。ちなみに、女性に関する名詞でありながら「女性名詞」でなかった単語をあげると次のようなものがあります。

古英語 現代英語 意味
æwe; næmenwif married woman 既婚女性
broþorwif brother's wife 兄弟の妻
fæmenhadesmon; mægdenman; mægþman virgin (of a woman) おとめ(処女)
foligerwif prostitute 売春婦
forþwif matron 既婚女性、母
hiredwifmon female member of a household 家族の女性
lærningmægden female pupil 女生徒
mædencild; wifcild female child 女の子(女の子供)
mægden young girl おとめ
mennenu handmaiden 小間使い
siþwif noble lady 貴婦人
wif woman (wife)
wiffreond female friend 女友達
wifhand heiress (大きな財産の)女相続人
wifmann woman
wynmæg winsome maid チャーミングな若い女性
yrfenuma female heir 女性の相続人

女性も結婚すれば「中性化」するというのならわからなくもありませんが、「おとめ」が「男性」だったり、「女」(= woman) という単語が「男性」だったり、もうめちゃくちゃですね。もともとインド・ヨーロッパ祖語 (Proto-Indo-European) の「動物」と「静物」の分類が起源なので、そこらへんのことも関係しているのかもしれませんが、いずれにしろ推測にしかすぎません。ともあれ、中英語期になると、定冠詞の変化などとも関連して、名詞の性はだんだんと使われなくなっていきます。


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