I Dreamed a Dream ― おばさんには夢があった。

それは、去る2009年4月11日(土)、あるイギリスのテレビ番組から始まった。
“Britain’s Got Talent” という、音楽タレント志望者のオーディション番組である。
そこへ出場したある女性がいる。スコットランドの小さな町からやってきた田舎のおばさんである。中年太りで決して美しくもない。ダサい服装と無造作な髪型、コンテストという華やかな舞台にはほとんど場違いの感がある。

審査員:「お幾つですか?」
女性:「47歳です」
審査員:「は…ん、そう」
といった対応で審査員もやる気のない様子。
審査員:「で、あなたの夢は?」
女性:「プロの歌手になること」
審査員:「たとえばめざす人は?」
女性:「エレイン・ペイジ (Elaine Paige) さんみたいな歌手になりたいです」
審査員:「ふ~ん… そう」

言葉にこそ出さないが、審査員をはじめ観客の表情から読み取れるのは、「何を厚かましい」とか「何しに来たの、このおばさん」、「ちょっと勘違いしてるんじゃないか」といった冷笑や苦笑、おもしろ半分の好奇の視線。「ま、好きにやってくれ、誰も期待していないし」と言わんばかりの雰囲気の中で歌いだす彼女。歌の題名は、歌曲「レ・ミゼラブル」 (Les Misérables) から “I Dreamed a Dream” (私には夢があった)。
彼女は最初の一節を歌い始める。

“I dreamed a dream in time gone by”
(かって、私には夢があった)
突然、会場の空気が変わった。
“When hope was high and life worth living”
(希望高く、生きることに意味があったあのころ)
歓声の嵐が巻き起こる。
“I dreamed that love would never die”
(愛が不滅だと信じていた)
“I dreamed that God would be forgiving”
(神様は何でも許してくださると信じていた)

眉をつり上げ驚く審査員。顔を見合わせうなずき合う人々。満面の笑顔で手をたたく人、飛び上がる人。熱いざわめきが止まらない。目の奥がじわっとうるんでくる。まるで天から授かったかのような歌声に人々の感情が波のように動く。

“Now life has killed the dream I dreamed”
(人生がすっかり殺してしまった夢―私のみた夢)

彼女が最後の節を歌い上げると、観衆は総立ちになった。スターの誕生である。
スーザン・ボイル (Susan Boyle) さん、1961年4月1日生まれ、独身。母親が47歳のときの子で難産のため、その影響で学習障害が残り、小さいころはいじめられた経験を持つ。歌い手としてのキャリアは長く、地元の教会で歌ったり、地域のコンテストで優勝するなどのローカルなレベルで活躍を続けてきたが、今回のような大きな観衆の前で歌うのは初めての経験だった。生前、「Britain’s Got Talent に出てみたら」と言っていた母(数年前に91歳で他界)の願いに応えるつもりで出場を決意したという。

田舎町の内気なおばさんが巻き起こした大旋風。Britain’s Got Talent に初めて登場したときの録画ビデオが配布された YouTube には5日間で2000万件のヒット数があり、ワシントン・ポスト (Washington Post: 2009年4月20日) によると、Internet 全体で彼女に関連する他のビデオも合わせて8500万件もの視聴を記録。これは、かのオバマ大統領 (President Obama) の勝利演説が1850万件だというからその数たるやすごい。また、ウィキペディア (Wikipedia) の記事では、発行後10日間で約50万ページビューを記録した。各ニュースメディアも取り上げ、無名のおばさんがわずか10日間ほどで世界的な有名人となった。

しかし、決勝では惜しくも敗れ、結果は2位。そして、極度の疲労からか、彼女は今病院にいる。回復を祈り、励ましのエールを送る人々もいる反面、「メディアも酷だよ、ヘンな期待を持たせて」、「彼女はそれほど才能があるとは思えない。ミュージカルというのはあんなものじゃない」など、心ない厳しい批評をする人たちもいる。

音楽、そして芸術とは何か―?

それは理屈ではない。「こうあるべき」という規則でもない。理論やルールで味わうものではない。100人いれば100人すべてを満足することは不可能に近い。
しかし、確実に、それを鑑賞した誰かが感動した。涙を流した。ほんの少しだけ、人生の意義を感じた。それが最も大切なのではないかと思う。

そして、それに触れたその人自身がそこから何かを感じ取れればそれでいい。

たとえば、

あなたがかって抱いていた夢。
記憶の引き出しの奥でほこりをかぶって消えそうになっている夢。
人生の歯車のなかでつぶされてしまった夢。
人生は一度きり、思い出してみませんか、そんな夢―。

以下は、”Britain’s Got Talent” に登場したときのビデオと、彼女が歌った “I Dreamed a Dream” の歌詞(拙訳)である。

https://www.youtube.com/watch?v=9lp0IWv8QZY&feature=related

I dreamed a dream in time gone by
(かって、私には夢があった)
When hope was high and life worth living
(希望高く、生きることに意味があったあのころ)
I dreamed that love would never die
(愛が不滅だと信じていた)
I dreamed that God would be forgiving
(神様は何でも許してくださると信じていた)
Then I was young and unafraid
(若かった。怖いものなどなかった)
And dreams were made and used and wasted
(使い捨てのように次から次へと夢をみた)
There was no ransom to be paid
(義務や責任もなかった)
No song unsung, no wine untasted
(はしゃいで、騒いで、楽しんだ)
But the tigers come at night
(でも、やがて夜が来て、恐ろしい虎がやってくる)
With their voices soft as thunder
(雷が優しい声でささやくように)
As they turn your hope apart
(希望を粉々にし)
As they turn your dreams to shame
(夢を幻滅へと変えていく)
And still I dream he’d come to me
(まだ私は夢見ている)
That we would live the years together
(あの人がやってきて、ともに暮らせることを)
But there are dreams that cannot be
(だけどかなわない夢もある)
And there are storms we cannot weather
(予測できない嵐もある)
I had a dream my life would be
(こんなはずじゃなかった私の夢)
So different from the hell I’m living
(地獄のような今の生活)
So different now from what it seemed
(こんなはずじゃなかった)
Now life has killed the dream I dreamed
(人生がすっかり殺してしまった夢―私のみた夢)

Yes We Can! ついにオバマ氏アメリカ第44代大統領に選出

シカゴ (Chicago) のグラントパーク (Grant Park)。
さまざまな人種や年齢の人々が、広大な敷地をモザイクのように埋め尽くす。
熱い歓喜のどよめき。
うねる星条旗の波。
2008年11月5日(現地4日)、初のアフリカ系アメリカ人大統領が誕生した。

“If there is anyone out there who still doubts that America is a place where all things are possible; who still wonders if the dream of our founders is alive in our time; who still questions the power of our democracy, tonight is your answer.”
(アメリカとはすべての可能性が実現する国である。そんなことはないと疑っている人はいますか?偉大なるアメリカの建国者たちの夢は今でも生きている。ほんとにそうだろうかと思っている人はいますか?民主主義の力を信じられない人がいますか?もし、そんな人がいれば、今夜がそれを証明する答えです。)

オバマ大統領のスピーチが始まるとみな一斉に耳を傾ける。
涙と希望に目を輝かせて。
ある者は陶酔するように、ある者は”Yes, yes”と強くうなずきながら。
また、ある者は感動の涙に顔をくしゃくしゃにしながら、
ある者は誇らしげな笑顔をほころばせながら…。
日本では、たぶん見られない光景である。
起こらない出来事である。
今までも、そして、これからも。

Tonight is your answer.
The victory belongs to you.

それぞれの言葉の持つパワーを効果的に動員・調和させながら、最大限の言葉のエネルギーを作り出すオバマ・スピーチ。
ただでさえ、感動に揺さぶられている人々の心をさらにゆり動かす。
これでもか、これでもかと。

まさに、英語は「雄弁」のための言語だ。
そして、たぶん、日本語ではできない表現である。
語れない内容である。

日本人はあまりにも寡黙すぎる。
あまりにもシャイすぎる。
言語表現が平坦すぎる。
なぜなら、日本語は「寡黙」のための言語だから。

息抜きにオンラインゲーム

ちょっと「息抜き」というときに使うのがオンラインゲーム。オンラインゲームと言っても、いわゆるMMORPGなどのロールプレイング・ゲームではなく、もっぱらMSNのサイトで提供されている、一人でぼちぼちと遊ぶ類のものを楽しんでいますが、シンプル、かつ無料で手軽というのが気に入ってます。
http://zone.msn.com/en/root/gamebrowser.htm?playmode=1&intgid=hp_Nav_3
なかでも、Bejeweled、Jewel Quest、Zuma、Luxorといった、単純で頭を使わない内容のもの(そうでなければ息抜きになりません)がお気に入りです。
BejeweledとJewel Questは、いずれもゲームのネーミングに「Jewel」という単語が入っていることから、カラフルな宝石のようなコマを左右上下で並べ替えて、同じコマを使った3つ以上の続きのセットを作るというパズル感覚のゲームです。同じコマが3つ以上そろうとそのセットが削除され、その上にあるコマがシフトして降りてくるというしくみになっています。
Bejeweledでは、一定以上のコマをクリアすると、得点とレベルが上がっていきますが、プレイヤーが「良い動き」をすると、Excellent!とかIncredible!といった掛け声が入り、先生に褒めてもらっているようでちょっと得意になったりします(単純ですが)。また、コマを移動させるときの効果音とクリック感で「さくさく」した爽快感が楽しめます。
また、Jewel Questのほうは、第三段階目くらいになると、いくつかマスキングされている升目が出てきて、その周辺のコマをある程度クリアしなければ、そのマスキングが排除されません。このマスキングが取り除かれるときの音と反応の仕方が心地良く、ほどよい「達成感」を刺激してくれます。
一方、Zuma、Luxorのほうは、出口からぞくぞくと出てくる玉の列を排除していくというゲームで、2つ以上続いている同じ色の玉に攻撃用の同じ色の玉を当てることで取り除くことができるというルールです。Zumaのほうは、中南米の古代帝国のイメージ、Luxorはエジプトのピラミッドをモデルにしたデザイン。どちらも、出てきた玉がレールの最終点である穴に到達してしまうまでに、玉をすべて排除しないと、「ドドーッ」という音をたててすべての玉が「奈落の底」へ落ちていくということになっています。
単純で頭を使わないとは言え、ある程度の戦略が必要になります。次から次へと出てくる玉の軍団、ところが、攻撃用に出てくる玉の色は決まっていますから、打ちたいところに打ちたい色がないというようなことになってしまうわけです。そこで、効率的な打ち方を考えたり、コインを打つなどして、特殊な「武器」をゲットすることも必要になります。
とくに、Luxorのほうは、一列を消してもまた次が出てくるという具合で、けっこう時間もかかり、肩や腕が疲れることもあります。ほんの息抜きのつもりが、「あ!しまった、もうこんな時間だ」なんていけませんね。もちろん、私も忙しいときにはやりません。
それにしても、こういったゲームをプレイしていて思うのは、エンタテイメントのツールとして、なるほど「よくできている」ということです。デザインや音楽はもちろんのこと、プレイヤーが何か動作を起こしたときのゲームツール側のレスポンスやリアクション、こういったことが非常に良くデザインされていると思うのです。効果音の質、タイミング、そして、それがあたかもマウスを持つ手に伝わってくるような感覚が楽しめるのです。
こういった要素がすべてうまく融合され、ひとつのゲームとしての娯楽世界が構築されていると言えるでしょう。
ふと、こういったものを販売促進にも活かせないものか、などと考えることもあります。まさに、エンタテイメントと販売促進の融合。思わず引き込まれてしまうデザイン、面白くてどんどん読んでしまう会社案内、音楽や効果音を取り入れたカタログ、さわり心地や匂いまでが伝わってきそうなパンフレット、気がついたら商品を購入していました―なんて、いいですね。