「クリエイティブ翻訳」とかけて (1)

「クリエイティブ翻訳」とかけて、粒入りジュースと解きます。

―その心は?

よく振ってから翻訳します。

ジュースに限りませんが、液体中に含まれた微粒子や固体物は、その重力によって底に沈殿します。一見した限りでは、水面は透明感があり、穏やかですが、撹拌(かくはん)することで底の沈殿物が浮上し、液全体が濁ってきます。飲み物であれば味も異なってきます。

よく振って飲む―これが粒入りジュースの楽しみ方です。

これを翻訳にたとえると、直訳や表面的な翻訳というのは、撹拌する前の、静的で薄い水面だけを処理することだと思うのです。

ところが、底にたまっている内容物は大切な栄養分であったり、液体全体の色や味を決定する要素であることも多いものです。

ですから、水面から見えるものだけを表現したのでは、本当に大切なものが伝わらないことになってしまいます。だからこそ、全体をよく振って、吟味してから文章表現することが大切だと思うのです。

とくに、直接的な表現を嫌う日本語には、こういった傾向が強いと思います。表面はさらっと穏やかに見せながら、実は言いたいことが水面下に隠されている、そこに「あうん」や「ツーカー」の意思疎通が成り立っているのではないかと思います。わざわざ振って見せなくても、相手が勝手に振って味わってくれる、日本古来の「粋」な精神だったのです。

でも、これは英語を使ったコミュニケーションでは通用しません。振ってやらなければわからない、それが西洋の意思疎通の方法だと思うのです。

つまり、日本語は沈殿した粒入りジュースなら、英語は撹拌した状態の粒入りジュースだということです。

そして、撹拌させたり、沈殿させたりして、調整しながら、読者が楽しめる状態に表現しなおすこと、
―それが「クリエイティブ翻訳」だと考えています。