「クリエイティブ業界」ってどんな業界?
と問われると、日々クリエイティブなことを考え、それをデザイン、映像、音楽、文章といった手段で表現する業界という定義がいちおう成り立ちます。
こう言うと、おもしろそうなことを考えて、自分の好きなことばかりやっている楽しそうで華やかな業界だ―などと思われるかもしれませんが、それは違います。
広告、カタログ、パンフレット、ビデオなど、何を創るにしても、「クリエイティビティ」とか「インパクト」などとカッコイイことを言っているだけでは何ひとつ完成しません。カタログの表紙やトップ見開きのデザイン、コピーはできているのに、「仕様や注意書きのページはどうなってるんですか?」、「いやあ、それって、クリエイティブな仕事じゃないし…」というようなところには、当然、仕事は発注できません。
「ものづくり」にはダイナミックで華やかな部分と、細かく地味で目立たない部分があります。言い換えれば、陰(いん)と陽(よう)の部分があるわけで、万物すべてこの二つの相異なる要素がそろってこそ初めて完全な姿になる、物には必ず明と暗の局面があるというわけです。
カラフルなデザインやキャッチフレーズを考えるのが「陽」の部分なら、商品の仕様をまとめたり、文字校正をすることが「陰」の部分とも言えるでしょう。
自分ごとになりますが、新卒で入社した制作会社での初めての仕事が「文字校正」でした。当時は、現在のようにパソコンもない時代ですので、データでテキストをそのまま流し込むということはできません。タイプ打ちされた原稿をもとに、印刷用に文字を打って貼り付ける「写植」というものが使われていました。
「じゃ、校正お願いね」ということで、元の英文原稿と上がってきた写植のコピーを渡されたのですが、ざっと目を通して、「終わりました!」と持っていくと、「修正箇所、どれくらいあった?」と先輩。「いえ、ありませんでした!」と元気に答えると、「ちゃんと見てくれたの?」と怪訝そうな様子。「はあ?」というわけで、先輩がざっと見ると、「ほら、ここも間違ってる、これも誤植でしょう?最初から、絶対にどこか間違っているはずというつもりでチェックしないとダメよ。もう一度やり直し」と付き返されてしまいました。
「毎日がクリエイティブ」という期待とは裏腹に、華やかな部分はほんの少しで、大部分が泥くさい、根を詰める地味な作業という現実。ひとつのものを作り上げるには、ダイナミック vs 緻密、派手 vs 地味といった両局面の視点を持つことが要求されるのです。
とは言え、人には適材適所があるもので、大まかで華やかな部分が得意な人間と、緻密で冷静なことが得意なタイプがいます。
職種によって分けられていることもあり、ひとつのものを制作するにも、いろんな人間が分担しながら共同作業をします。細かいタイプの人間に言わせれば、「この罫線はコンマ○ミリ細くしてください」、「アルファベット表記の前後はすべて半角スペース入れてください」などと言い出し、逆に、大まかな人間は、「そこまで言い出したらキリがない、納期に間に合わないよ」と悲鳴を上げ、「でも、大事なことだと思います!」と切り返す… そこへ、「まあまあ」と中くらいの考え方の人間が入って調整したりするという、なんだか、妙なバランスで成り立っている業界でもあります。