中英語期(1100~1500)(Middle English) (2)
文法的な特徴
古英語――新英語時代へでも述べていますが、古英語から中英語にかけての最も大きな変化は、なんといっても、複雑な格変化や人称ごとの動詞の活用をともなう総合的言語 (synthetic language) から分析的言語 (analytic language) への変化だと言えるでしょう。
この変化の背景には、8世紀にブリテン島にやってきたデーン人 (Danes) の言語である古ノルド語 (Old Norse) の影響がありますが、これによって、古英語――古英語の文法でみたような特徴がなくなり、主語、動詞、目的語、補語などの語順が固定化された言語に変わっていきます。また、古ノルド語からの新しい単語も借入されました(古英語――入ってきた新しい単語たち参照)。
さらには、1066年のノルマン人による征服により、おびただしい数のフランス語が流入してきますが、これらの単語は、英語本来(ゲルマン語系)の語彙を置きかえてしまうのではなく共存していくことになります。
それによって、同じ意味であっても、英語本来の単語とフランス語(ラテン語から由来)の単語と2種類の単語が存在することになります。現代の英語の語彙をみてもわかりますが、たとえば、「王の、王侯の」という言葉に、英語本来の kingly という言葉もあれば、ラテン語源の royal という単語もあり、それぞれ使い分けがされています。
表記法の標準化
1066年以来、公式な文書はほとんどフランス語で書かれるようになっていたことから、中英語期の英語表記は地域によっても異なり、表記ルールにもバラツキがありました。
しかし、14世紀になると、イースト・ミッドランズ (East Midlands) 地方からロンドンに移民する人々が増え、彼らの方言をもとに「ロンドン方言」が形成されます。その時代に活躍した文学者チョーサー (Geoffrey Chaucer) もこのロンドン方言を使って作品を書いています。
そして、このロンドン方言を基にした標準的表記法として、「公文書標準」(Chancery Standard) と呼ばれる表記法が確立されます。1430年ごろのことでした。
この表記法は、1470年代にイングランド最初の印刷を実現したカクストン (William Caxton) のおかげで普及し、それぞれラテン語と法律フランス語を使っていた教会や法律分野をのぞいて、すべての公文書がこの方式を採用するようになりました。
また、古英語の時代の9世紀にラテン語から入ってきたアルファベットにおいても、æ や ð、þ など、すでに使われなくなった文字が廃止されたり、新しい使用に応じた文字の変更などが行われ、より現代のアルファベットに近い形になっています。
発音の変化
発音においても、古英語の時代とくらべて、さまざまな変化が現れています。それまで二重母音として発音されていたものが短母音になったり、使い分けをしていた2つの母音が一つに統合されるなどの変化の他、近代英語期まで続く大母音推移 (Great Vowel Shift) という現象も始まります。
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