翻訳とは意味だけではなく、同時に言葉の「オーラ」を伝えることだと考えています。
それぞれ特有のオーラを持つ言葉が集まって、文章全体のオーラが形成されます。
ところが、文章全体を構成している言葉の中に、ひとつだけ、極端にオーラが異なるものが混ざっていたらどうでしょう。たとえば、上品なオーラを持つ言葉のグループの中に、あまりお行儀のよろしくないオーラを持つ言葉が含まれているといった場合です。なんとなく、全体的にバランスの取れていない、違和感のあるライティングになるのではないでしょうか。
たとえば、権威のある新聞などが、「ついに養殖詐欺師逮捕!」という見出しの一部を変えて、「ついに養殖ペテン師逮捕!」となっていたとします。
なるほど、「詐欺師」と「ペテン師」は意味は同じです。また、この見出しが英語から翻訳されたものと仮定して、英語の swindler を辞書で引くと、「詐欺師、ペテン師」などと意味が掲載されているので、何気なく「ペテン師」を使うということも考えられます。
ところが、この2つの言葉はやはり、持っているオーラが違います。これを読んだときに、今どき「ペテン師」という言葉を使うのかと感じる人もいれば、ちょっとコミカルなタッチで書かれた新聞かな?と思う人もいるかもしれません。
また、こういう例もあります。
(…略)あなたのパソコンは正しく機能しない「生ける屍」となってしまいます。
確かに、辞書を引くと「生ける屍」という意味が載っているかもしれません。しかし、これをこのまま使ってしまうと、やはり、違和感が出てくると思います。これが、個人が掲載したカジュアルな記事などであれば、
キミのパソコンはまさに「生ける屍」になってしまうのだ。
といった文章はそれなりに味があるかもしれませんが、きちんと威儀を正して伝えるべき企業のメッセージとして考えると、この表現はカラフルすぎるということになります。類似した意味を持つ、もっとふさわしい表現を試みる必要があるのです。
和英辞典などには、その単語の意味は掲載されていますが、その言葉の持つ品格や雰囲気までは完全に伝えることはできません。だからこそ、辞書はあくまでも意味の参考ととらえ、それぞれの言葉のオーラを正しくつかみ、正しく伝える単語や表現を選んでいくということが大切だと考えています。
オーラが正しく伝わらないということは、ブランドイメージや発信者の気持ちがきちんと伝わらないということに他ならないからです。