日本人は「統一」が好き?

「めんどくさいから私もキツネうどんで…」
「じゃあ、全員キツネうどんで。すいません、キツネ5つください」

ということで、極端な例ですが、ここでの「統一」とは、「同一化」するという意味です。
赤信号もみんなで渡れば怖くないし、何事にも人と同じことをやっていればリスクも同じ、成功報酬も等しいということになり、「同一」であることには、(自分自身も含めて)日本人にとって安心感や心地よさがあります。

また、きれいに並んで揃っている、統一されているということは、日本人特有の「美意識」なのかもしれません。

ちなみに、そういった「統一志向」が文章表現の好みとして現れている場合も多々あります。

もちろん、全体的なバランスがありますので、表現レベルやスタイルの統一は必要です。ところが、なかには、文章の構造や使用する動詞なども統一したくなることがあります。

同じような文章が繰り返し出現することの多いマニュアルなどによく見られる例ですが、
たとえば、「画面が表示されます」という日本語に対して、

英語訳①:”The screen is displayed.”
英語訳②:”The screen will be shown.”

というふうに、ある箇所では英語訳①が使われ、別の箇所では②が使われているというような場合です。

日本語は同じなので、英訳もどちらか1つに統一したいという考え方が起きてくるのです。翻訳メモリなどで、日英の対比を1対1にしておきたいという場合もあります。しかし、こういった単語レベルの統一というのは、どうもそれほど重要な問題ではないような気がします。

また、マニュアルでは、たいてい各章の概要を一覧で説明したページが最初に来ます。
例)(○○の部分だけが変わります)

第1章 この章では○○について説明します。
第2章 この章では○○について説明します。
第3章 この章では○○について説明します。
(以下略)

と同じ構造の文章が並ぶのです。「説明」という同じ単語を使っているのも特徴で、「ご紹介します」などというバリエーションは認めないという考え方もあるようです。日本語版なら、このままでも特に問題はないでしょう。

ところが、英語表現でもこれを踏襲して、すべての該当箇所に対して、

Chapter 1: This chapter explains…
Chapter 2: This chapter explains…
Chapter 3: This chapter explains…
(以下略)

として欲しいという要望をいただくこともあります。もちろん、This chapter describes…やThis chapter outlines (details)…といったバリエーションは許されません。

なるほど、視覚的にはみんながきちんと揃っていて、(日本人としては)気持ちの良いものがありますね。

しかし、英語圏の人たちの感覚では決してそうではありません。あまりにも作為的で不自然さを感じるのではないでしょうか。むしろ、同義語を使って表現に変化をつける、三番目の文章になると、態も変えて、”… are explained in the chapter.”などとメリハリをつけるのが自然だと思うのです。また、内容によっては、無理に型どおりの表現に当てはめると不自然な文章になる場合もあります。

こう言うと、「マニュアルなんだからそんな技巧は不要だ」といった意見が返ってくる場合もあります。

個人的には、こういったレベルのものは「技巧」というよりも、読んでいて疲れない、読みやすいライティングを作成するための、ごく当たり前の「工夫」であると考えています。