時空刑事1973 (Life on Mars)

またしてもお決まりのイントロだが、

もし、あなたが何かのはずみに意識を失い、目覚めたところが30年前だったら…?

しかも、30年前の現在の職場で働いている。そう、現在ではない30年前である。パソコンどころか FAX もない。「これくらいグーグル (Google) で検索 (search) すれば一発なのに…」と思うようなことでも、地道に図書館に行ったりして調べなければならない。書類を作成するにしても、MS ワードも一太郎もないので「あ、間違えた!」となると、消しゴムでゴシゴシやるか、ペンを使っている場合は最初から書き直しなんてことにもなってしまい、現代の便利さに慣れてしまっていると結構キツイ。もちろん、忘れた漢字を変換してくれるソフトもない。とは言え、「今日から入社した○○です」「え、あの○○さん?」など、あのイヤな上司が新入社員で自分の部下になったりする可能性もあり、「たっぷり日頃のお返しを…」ということもできるかもしれない(あまり良い趣味ではないが)。

そんな困った状況になったのが、主人公のサム・タイラー (Sam Tyler) 。大マンチェスター警察 (Greater Manchester Police; GMP) の警部 (Detective Chief Inspector; DCI) である。2006年、交通事故に遭い、目覚めたところが1973年。そして、33年前の大マンチェスター警察で勤務しているという設定である。しかし、彼にとって厄介なのは自分の状態がわからないこと。死んでいるのか、こん睡状態に陥って夢を見ているのか、はたまたタイムスリップ (time slip) してしまったのか。それとも頭がおかしくなってしまったのか…。

これが普通の SF ドラマなら、時間空間のひずみにはまって過去に行ってしまったとか、タイムマシンに乗って飛んできましたなど、自分にも自覚があるのだが、彼の場合はちょっと違う。事故に遭ったところまでは覚えているのだが、それから後はさっぱりわからない。それでも、ふとした瞬間に何かの装置らしき「ピッ、ピッ…」といった音が聞こえたり、近くの電話が鳴るので取ってみたら、自分の名前を呼ぶ母親や医者らしき人間の声が聞こえてきたりする。「あ、動いた!やっぱり彼には聞こえているのよ」「しかし、このままの状態を続けても目覚める可能性はありません」といった会話が展開する。ところが、彼には聞こえるのだが、こちらの声はいくら大声で叫んでも届かない。「もうしばらく様子を見て変化がなければ装置を外しましょう」という向こう側の声。しかし、そんなことをされては、それこそ戻るところがなくなってしまうじゃないか!「待ってくれ!外さないでくれ!」とこちら側で叫ぶ彼。トイレの鏡に向かって、「誰かここから出してくれ~っ!」と叫ぶ彼に、「アイツ、ちょっとおかしいぞ」と同僚の冷ややかな視線。そんな彼を唯一心配そうに見守ってくれるのが婦人警官のアニー (Annie) である。

ということで、見ている側にも、彼に何が起こっているのかさだかではない。こん睡状態なのかもしれないが、それすら、彼の頭のなかで創り上げられた「空想」の世界なのかもしれない。考えれば考えるほど、この点は「宙ぶらりん」 (suspense) の状態なのだが、その心理状態をじらすようにいろんな事件が展開する。そう、舞台は警察、事件が起こるのは当たり前である(ないにこしたことはないが)。しかも33年前だ。捜査のやり方もずいぶん昔かたぎである。21世紀の警察、サムにとっては当然の手順である科学捜査 (CSI = Crime Scene Investigation) なども、もちろん使われない。「でも、証拠が…」「証拠なんて関係あるか!オレが犯人だと思うんだからヤツが犯人なのさ」といったノリである。汚い手口も使うし、汚職もあり。そんな彼らと絶えず対立するサムは、時代をまたいだカルチャーショック (culture shock) にも悩まされる。

「この事件はどうなるのか」と刑事モノ (police procedural) のつもりで観ていると、突然、2006年の映像のフラッシュバック (flashback) が現れ、あの「ピッ、ピッ…」が聞こえ、会話の声がする。苦悩し取り乱すサム。「彼は現在に戻れるのか」とハラハラしていると、「おい、行くぞ」という同僚の声に覚醒されるように捜査現場に戻っていく。まさに、「刑事モノ」と SF (science fiction) という二つのプロットを交互に織り成すハイブリッド型ドラマと言えよう。

原産国イギリス (UK) で2006年からスタート。アメリカ (US)、カナダ (Canada)、オーストラリア (Australia)、ニュージーランド (New Zealand)、アイルランド (Ireland)、フランス (France) などでも放映され、アメリカではリメイク (remake) もされた。

それにしても、サムは戻れるのか、それとも―。

これは、サムのモノローグで構成されるイントロ部分である。

https://www.youtube.com/watch?v=jZOzsIhCPgs