ビクトリア (Victoria)

これは、たまたまテレノベラの作品を検索していて見つけたドラマであるが、その名もずばり、「ビクトリア (Victoria)」である。

と言っても、もちろん前述の「ビクトリア~愛と復讐の嵐」のビクトリアとは別のドラマ。日本には紹介されていないので邦題はない。以前に紹介した「不細工ベティ」(Yo soy Betty, la fea) の邦題「愛と裏切りの秘書室」、「ビクトリア~愛と復讐の嵐」にならって「愛と○○の××」というノリで無理やりつけるとすれば、ややコミカルな響きだが「愛とよろめきの迷路」とでもしておこう。

主人公のビクトリア・サンティステバン・デ・メンドーサ (Victoria Santistevan de Mendoza) は50歳をむかえた熟年女性。会社を経営する夫エンリケ・メンドーサ (Enrique Mendoza) との間に三人の子供たちがいる。愛する家族や約40年来の二人の親友エレナ (Elena) とカミラ (Camila) に囲まれ、何不自由ない平穏な人生。そんな幸せな生活がこれからもずっと続くはずだった。

ところが人生とは皮肉なもの。夫との25周年の結婚記念日の日、夫に20歳も年下の愛人がいることが発覚する。ここからビクトリアの苦悩が始まる。結局、夫は家を出て愛人のもとへ走り、子供たちにもいろんな問題が起こっていく。

これが日本の現代の感覚なら、「そりゃ、エンリケさん、あなたが悪い、身勝手すぎます」ということになるが、そこは男尊女卑の考え方が残るラテンアメリカ(時代はもちろん現代である)。妻が至らないから夫が他の女性のもとに行くのだ―という理屈なのだ。彼女の実の母がまたうるさい。日本で言えば昭和一ケタをも通り越して明治時代の感覚で生きている骨董品のような老女である。娘の苦しみなどわかろうともしない。

そして、子供たちのいろんな問題。末娘のマリアナ (Mariana) は学校をサボったり、麻薬に手を出すようになるが、母親のビクトリアには心を開こうとしない。とにかく、生意気でずる賢い「魔女」のような娘である。また、上の娘のパウラ (Paula) は未婚ながら妊娠。急きょ結婚することになるが、「できちゃった結婚」改め「授かり婚」で、「ダブルのお目でた」などと言ってもらえる日本とは違う。またぞろ、実の母や夫が出てきて「お前(ビクトリア)がしっかりしていないから云々… こんなふしだらな…」などとのたまう。実の母はともかく、エンリケ、あんたは言えた義理じゃないだろう!と思ってしまうが、やはり、そこは「男はOK、女はダメ」のお国柄である。

そんなところへ登場するのが、ビクトリアを「理想の女性」だと崇拝する若い男性ヘロニモ・アコスタ (Jerónimo Acosta) である。毎日のように電話をかけてきては、片思いの胸のうちを訴える。

観ている者としては、「あ、ちょうどよかったやん」なんてことになるが、話はそんなに簡単には展開しない。筆者の友人にも20歳年下の男性に求愛され、結婚した女性がいるが、これまた日本とは異なり、「男はOK、女はダメ」の文化である。そうこうしているうちに、自分の息子サンチアゴ (Santiago) が、え… 友だちのカミラと…? なんてことで、迷いと苦悩が交錯する。

ともあれ、日本で言えば、よく昭和30年代のお母さんたちが観ていたライオン提供(?)奥さま劇場―俗称「よろめきドラマ」になんとなく似ていなくもない(観ていたわけではないが)。夫はよろめき、子供も友人もよろめき、そして、彼女もついにヘロニモ・アコスタと…? 昭和30年代のお母さんじゃないが、ちょっとだけ楽しみである。

下記はドラマを紹介するトレイラービデオである(英語の字幕つき)。

https://www.youtube.com/watch?v=wAPOOtJBUes

ビクトリア~愛と復讐の嵐 (Olvidarte Jamas)

原題は Olvidarte Jamas (オルビダールテ ハマス)、ベネズエラのテレノベラ (telenovela:テレビ小説) である。

ここで、恒例のスペイン語解説をしておくと、olvidar (= forget)、-te (= you)、jamas (= never) ということで、意味は「決してあなたを忘れない」。なんとも情念たっぷりのタイトルであるが、さすがに日本語ではフィットしないということなのか、邦題はちょっとレトロな雰囲気だ。

そういえば、「ベティ」の邦題も「愛と裏切りの秘書室」で、やはり、ラテンのテレノベラはこのタッチを踏襲するということなのか、なんとなくしっくり来ているような気もする。

さて、ストーリーであるが、主人公ビクトリア (Victoria) がかつて自分に対してひどい仕打ちをしたモンテロ (Montero) 一家に復讐を果たそうとするが、恋人ディエゴ・イバラ (Diego Ibarra) との愛に目覚め、本当の幸せをつかもうとする… といった筋書き。

なるほど、「復讐」と言うだけあって内容はけっこうどろどろしている。

それにしても、このドラマには善人、いや少なくとも普通の人はいないのか―と思わせるほど、ゴロツキのような人間が多い。農場を経営するモンテロ家の財産をめぐって、いやしく交錯する人間の欲望とおろかさ。

「アイツがいなければ財産は自分のものだ。よし、アイツを亡き者にしよう」
「あの女さえいなければ彼はわたしのもの。そうだ、あの女を始末しよう」

なんてことで、思考回路が短絡的である。非常にシンプルだがツメも甘い。計画に緻密さがない。あまりにも大ざっぱで、やはり、ここら辺もラテン気質なのか(あまりステレオタイプな見方もよくないが)。

また、テンポの速いアメリカのドラマに慣れてしまうと、ちょっと気になるのがシーン展開の遅さである。

あるシーンで、「どういうことなんだ?説明してくれ」などというセリフで終わって別のシーンに移る。そして別のシーンで10分ほど経過した後にまた最初のシーンに戻るが、「頼むから、説明してくれ」というセリフからスタート。「あれ?まだそこか」、「まだ説明してもらってないのか」なんてことになり、時間が行きつ戻りつしている。せっかちなタイプには、思わず「早く言ってくれ、時間がなくなる」と言いたくなるが、まあ、これはこれでひとつの表現法ということで。

しかし、はやり、ラテンは熱い。情熱的である。

恋人が撃たれた。大変なのはわかる。しかし、そんなに大変な箇所を撃たれてもなさそうだし、血もそんなに出ていない。落ち着こう、脈を取ってみよう… などと視聴者は思うのだが、恋人を抱きしめ、ひたすら「死なないでくれ!」と泣き叫ぶばかりの男。泣き叫ぶ前に救急車を呼べ!と思ってしまうのだ。とは言え、気が転倒しておろおろしてしまうというのがより現実に近いかもしれないが。

ということで、下記は、ドラマの主題歌を熱唱するメキシコの歌手・俳優であるパブロ・モンテロ (Pablo Montero) さんのビデオ。

https://www.youtube.com/watch?v=lwAQhgqJTmg

そして、ドラマを紹介したトレイラービデオ(スペイン語)。

https://www.youtube.com/watch?v=qO8yxLvXRks

わたしはベティ、不細工です (Yo soy Betty, la fea) (2)

そりゃいかんでしょう、 アルマンド (Armando) さん。

ということで、このヨ・ソイ・ベティ・ラ・フェア(不細工ベティ)の中で、ベティが想いを寄せているのが、このドン・アルマンド (Don Armando:Don は男性のファーストネームの前につける敬称。女性なら Doña をつける) ことアルマンド・メンドサ (Armando Mendoza) であるが、どうも、このお兄さん、「それはいかんでしょう」と思ってしまう。

すぐ感情的になって怒鳴る、ケンカをする、人の日記は読む… こんな男とたとえいっしょになってもロクな結果にならないのではないかと思ってしまうのだ。こんな男はやめて、カルタヘナ (Cartagena:海岸沿いのリゾート地) から訊ねてきたフランス人のミッシェル (Michel) にしといたらいいのにと思うが、ラテンの国ではこういう男性がいわゆるマッチョ (macho) でカッコイイのかはわからないが。しかし、また、このアルマンドさん、すぐ泣くのである。まあ、情熱のラテンということで、いかにも、それらしいのかもしれない。

そして、情熱のラテンはやはり熱い。

よく聞く話だが、イタリアを含めて、ラテン系の国では、好きな女性の部屋の窓辺でセレナーデ (serenade) を歌うという伝統がある。自分の歌に自信がなければプロに頼んで歌ってもらう。日本でも平安時代の昔、和歌を交換して想いを伝えたりしていたようだが、あくせく働く必要のなかった貴族の間でのことで、ヒマがなければこんなことはできない。さすが、「アスタ・マニャーナ」(Hasta mañana:「明日があるさ」という意味のスペイン語) の国、時間はたっぷりありそうだ。

で、話はそれたが、アルマンドが歌手のリカルド・モンタネール (Ricardo Montaner) に頼んで歌ってもらったのがベサメ・エン・ラ・ボカ (Besame (en) la Boca) という歌で、これがなかなかよかった。

ここで、恒例のスペイン語解説をしておくと、Besame (= Kiss me)、(en) la Boca (= (in) the mouth) ということで意味はおわかりいただけるかと思う。

ふ~ん、アルマンドさん、なかなか味なことをやるな、さすがラテンというわけで、筆者も既婚者であるため、むやみに「ベサメ」にはお応えできないが、一度歌われてみたいと思う歌である。

ちなみに、聞いてみたいという方は下記のurlへ。スペイン語の字幕入りなのでいっしょに歌ってみることもできる。

https://www.youtube.com/watch?v=pgv9HPP2OV0

わたしはベティ、不細工です (Yo soy Betty, la fea)

タイトルはスペイン語で、ドラマもスペイン語なのだが、意味は、「わたしはベティ、不細工です」といったところ。ちなみに、ちょっとスペイン語解説をしておくと、Yo (=I)  / soy (am)  / la (=the)  / fea (ugly の女性形)というわけである。また、ベティ (Betty) は英語のようにエリザベス (Elizabeth) の愛称ではなく、その正式名はベアトリス (Beatriz)。

今は使う機会もなく、すっかりさび付いてしまったが、いちおう筆者の大学での専攻はスペイン語である。ある日、ケーブルテレビのチャンネルをあちこち切り替えていたら、「お、スペイン語のドラマやってるぞ」ということで発見したのがこれである。一時はけっこう流暢にしゃべっていたスペイン語をなんとか取り戻したいと思っていた矢先のこと、さっそく「これでも見てみようか」ということになった。

とは言え、10年以上もまともに使っていないスペイン語だ。しかも、この言語を話す人はなぜかおしゃべり。また、このドラマもいちおうはコメディーなのでよくしゃべる。早口でまくしたてられるスペイン語にさっぱりついていけない。タイトルからして、「不細工なおねーさん」の話だろうということはわかる。

しかし、語学を習得しようと思えば、ここで簡単に「主音声」などに切り替えて日本語で観てしまっては意味がない。英語学習もそうだったが、筆者の場合、絶対に日本語では観ない(もちろん、基本的な言語の知識は必要)。わからないなら、わからないなりに、あくまでも外国語で理解しようとすること、これがモットーである。その代わり、あらゆる手段を使う。まず、ビジュアルを見ながら想像力を最大限に働かせ、どんなことが起こっているのか、だいたいどんなことを話しているのか、をつかむことから始める。次に、いまやインターネットを活用しない手はない。なにしろ途中から観始めたので、それ以前のストーリーもわからない。せっせと 検索しながら、だいたいのストーリーの流れをつかむ。また、YouTube などでそれまでのエピソードの抜粋がけっこう載せられているのでそこら辺もチェックしておく。

さて、主人公のベティことベアトリス・アウロラ・ピンソン・ソラノ (Beatriz Aurora Pinzón Solano) は醜い容姿のため、幼い頃からさんざん辛い思いをしてきた。しかし、頭脳はすこぶる優秀で大学も主席で卒業、しかし、その容姿のため、満足に就職もできない。履歴書を送った段階で、その写真を見て書類選考で落とされてしまうのだ。顔だけで選ぶとは、どんな国だ!(ちなみに、原産国は麻薬などで悪評高いコロンビア)と思わないではないが、実際、コロンビア (Columbia) に行ったことも(住んだことも)ないので、真偽のほどはわからないが。

確かに、不細工ではある(と言っても演じている女優はきれいだが)。ダサイ髪型に服装、しゃべり方や立ち居ふるまいも「どんくさい」という感じだ。しかも、「歯の矯正ブリッジ」をしており、これが「不細工さ」を演出するのにかなりの効果をあげているようだ。そして、このベティが初めて写真なしの履歴書を送って面接までこぎつけたのが、コロンビア最大手であるファッション系の会社エコ・モダ (Eco Moda) で、たまたま秘書として採用される。

で、そんな彼女が密かに想いを抱くようになるのが、上司であるアルマンド・メンドサ (Armando Mendoza)。しかし、彼にはすでに婚約者(これがまた嫉妬深く、意地悪なおねえさん)のマルセラ・バレンシア (Marcela Valencia) がいる。自分なんて相手にされるわけがないと思いながら、その頭脳と手腕を活かし、アルマンドを支え、片腕となっていくベティだが、実は、これはロマンス・コメディーなのである。そして、視聴者の楽しみは、この不細工ベティがある日、美しい女性に変身、そこから展開する新たなストーリー展開である。

このドラマは原産国コロンビアでは1999~2001年の間に放映され、ベティそっくりさん大会などのイベントも行われたりなど、現地でも人気が高い。

その後、世界でも反響を呼び、アメリカの「アグリー・ベティ」(Ugly Betty) をはじめ、ドイツ (Germany)、ロシア (Russia)、フィリピン (Philippines)、トルコ (Turkey)、ベトナム (Vietnam)… など十数カ国でリメイクされている。物語のテンポも遅いし、それほど新奇なストーリーでもないが、見ればなるほどおもしろい。

ちなみに、これがベティーである。

https://duckduckgo.com/?q=yo+soy+betty+la+fea&atb=v95-1&iax=images&ia=images